第五章 家族の視点から

 

 第四章では、指導する側の視点からの意見や問題点を扱ったが、第五章では、指導を受けている側の立場、特に子どもを学校に通わせている親の立場から日本語指導の問題、学校の現状について考えていきたい。

 

第一節 Pさん一家

 

 Pさん一家は、父親のPさん、母親のQさん、長男で高校一年のM、次男で小学校三年のL4人家族である。来日したのは、Mが生まれてすぐの16年前。その後、2度の帰国と再来日を経て、現在にいたる。現在両親は共働きで、Pさんがアルミ関係、Qさんがプラスチック関係の仕事に就いている。ML兄弟は、第六章で述べる日本語教室も利用していた。(第六章 <三人寄れば・・・>参照)

日本語について、兄のMは難しいと語っており、最初は、全然理解できなかったが、勉強していくうちにどんどん分ってくるようになったと言っている。Mが中学生のころ、Mは高校進学を目指して学校以外でも日本語教室などで日本語の勉強を続けた。中学校の先生から、高校進学は無理だと言われたが、ブラジルで先生を務めていたQさんに計算を教えてもらったり、日本語教室での勉強を続けたりして、高校に進学した。

ブラジル人の高校進学の困難さについてPさん家族は、日本語、漢字を覚えるのが難しいこと、中学校でいじめを受けて学校が嫌になる子どもが多いこと、金銭的な問題、そして中学校の先生のブラジル人生徒に対する進学サポートがおざなりであることを挙げている。そのため、進学の意思がある子が進学を断念することがあるという。

Pさんは、学校に対してブラジル人の親の話をもっと聞いてほしいと語っている。弟のLは兄のMと比べて、日本語の難しさを感じることが少ないようであるが、社会や、理科が苦手だと語る。漢字の習得は兄弟にとって難しいものであり、また、習得には時間がかかるようである。Pさんは、学校で覚える量より、日本語教室など学校外での学習で覚える量のほうが多いと語るように、多くの時間をかけないと習得が難しいようだ。Pさん、Qさんは非常に教育熱心で、MLには、大学に行ってもらいたいと語っている。また、ほかのブラジル人家族に対しても、もっと子供のことを考えないといけないと苦言を呈していた。(恐らく、これは非行に走るブラジル人が多いことについての発言であろう)

 

第二節 Rさん一家

 

 Rさん一家は、父親のRさん、母親のSさん、長女で小学校三年のT、次女で小学校一年のU、三女のV5人家族である。来日したのは16年前で、新潟に2年半いた後、富山にやってきた。16年の間に帰国したことはないそうで、娘たちは、みんな日本で生まれ、日本で育っている。Rさんは、現在溶接関係の仕事に就いている。Sさんは、Vの世話をしなければならないため、仕事には就いていない。

学校での勉強について、Tはあまり困難なことを経験していないと語り、両親もTの学習面については心配していないようである。ただ、Sさんは、算数などの宿題は見てあげられるが、国語の宿題特に漢字については、自分が分らないため、分らないものを教えるのは難しく、自分も勉強しなくてはならないと語っている。Uは、一年生ということもあり、まだ学校に馴染めていないこともあるそうだが、Tが家で勉強するのを見て、一緒に勉強をしているようだ。

家での会話は、ポルトガル語、日本語の両方が使われている。子どもたちの会話は主に日本語で行われ、両親もたまに分らないことがあるそうだ。両親の会話は、ポルトガル語で行われる。Rさんは子供たちに対して、日本語で話しかけたり、ポルトガル語で話しかけたりしているが、返ってくるのはもっぱら日本語だそうで、T自身も、ポルトガル語は苦手だと語っている。Rさん一家のテレビは、日本のテレビ番組が流れていた。インタビューに訪れた際もアニメ専門チャンネルが映っていた。これは、Sさんがブラジルのテレビ番組が嫌いだという理由でRさんの家ではテレビは日本の番組が流れているそうである。Sさんは、ブラジルの情報はインターネットで調べれば十分だと語っている。現在、学習面での困難はあまり感じていないR一家だが、日本の小学校は授業に用意しなければならないものが多いと語っていた。

インタビュー終了後、Sさんは、Tが書き初めの練習に使う新聞紙を分けてもらうために、知り合いのところへ出かけて行った。Rさんが語っていたが、用意しなければいけないものが家にない時は、土日を利用して店を見てまわり、より安いものを探すこともあるそうだ。