第2章第2節 郵政民営化の問題点

 

郵政民営化がここまで大きな議論となったのは与野党含め、多くの議員・知識人からの強い反発があったからである。ここでは郵政民営化反対側が問題とする意見の中から一部をピックアップし簡単にまとめる(以下、自由民主党・自民党政務調査会・公明党・民主党・首相官邸・ウィキペディア「郵政民営化」・橋本裕「文学人生world」・「政治経済の庵」各HPより参照)。

 

 1、特に過疎地・僻地等での利便性の低下し、全国一律のサービスが困難となる。

 

郵便局は全国のすべての市町村に最低1ヶ所はあり、全国で約24700局ある。国内最大の民間銀行であるみずほ銀行ですら、出張所を含んでも全国に1000店舗に到底満たない。また郵便局以外の金融機関がない市町村も多い。

採算性を重視し利潤を追求することが民間企業の経営の責務であり、赤字経営は問題外である。しかし郵便局の75%が赤字経営と言われており、その多くは過疎地域にある郵便局である。これらの郵便局は統廃合され、結果的に国民の利便性が低下すると考えられている。また採算を地域によって料金体系やサービス内容に差が出るなどの懸念もある。郵便・郵便貯金・簡易保険のような公共性の高い事業であるユニバーサルサービスは、義務教育と同様、地域社会に対して保全する義務が国家の役割として当然ある。

 

2、民営化によって財政的メリットはない。

 

郵政事業に携わっている公務員26万人の給与(年間約2.4兆円)は、郵便・郵便貯金・簡易保険の3事業で得た利益ですべてを賄っており、他の公務員と違って国民の税金を1円たりとも使っていない。よって公務員が民間人となることで税金支出が減るわけではない。

また民営化すれば現在は納めていない法人税や固定資産税などを払うことになり、国への納付が多くなるとされているが、郵政公社は利益の50%を国庫納付金として国に納めることになっており、これは国と地方分を合わせた法人税率(約40%)より高い。政府の試算をもとに2007年度から2016年度の10年間の納税(納付)額を比較すると、民営化後のほうが約四千億円も少なくなる。

民営化によって約26万人を非公務員にしてもそれは公務員の数を減らすだけであり、また納税額は民営化により少なくなるため、国庫には何のメリットもない。

 

 

 

3、民営化した海外の事例では失敗が多い。

 

ドイツでは1989年に民営化を決定。1990年に郵政事業はドイツポスト(郵便)、ドイツテレコム(電話通信)、ポストバンク(預貯金)に分割された。その結果、1990年当時29000局あった郵便局は2003年末には13000局にまで激減。そのうち直営の郵便局はわずか5000局と郵便局の激減が社会問題化。多くの地方で郵便局が廃止され、住民は遠くまで出かけなければならず、配達回数も半減した。政府は郵便局を12,000局以下にしてはならないとの政令を作らざるを得なくなった。

ニュージーランドは1987年に郵政事業は民営化で三分割、うち郵貯はオーストラリアの銀行に売却された。ニュージーランドでは規制緩和で銀行が外国資本の傘下に入り、サービスに手数料をとるほか支店の閉鎖が相次いた。

民営化したドイツ、イギリス、ニュージーランド等の国では民営化に際し郵便料金は上がっているし、結果としては大失敗に終わっている。

アメリカで2003年に財界人・学者・福祉活動家らがメンバーとなり大統領の諮問に答えて提出した報告書「米国郵便庁(USPS)に関する大統領委員会」によると、「郵便ネットワークの改革」について「ユニバーサルサービスの維持に必要な郵便局は、たとえ大幅な赤字であっても閉鎖すべきでない」と明確に「郵便局によるユニバーサルサービスの維持」を位置づけた。

 

 

ここで列挙したものは反対側の意見のほんの一部を簡潔にしたものであるが、多くの反対の中、郵政民営化法案は与党・自民党の了承なしの閣議決定(2004年)、直前に採決方法を慣例の全員一致から多数決に変更した、最高意思決定機関である自民党総務会での決定、「郵政民営化に関する特別委員会」の採決では反対派委員の賛成派議員を差し替える、などの経過を経て、衆議院本会議で可決(賛成233.反対228.欠席棄権14・病欠2)されたが参議院本会議では否決(賛成108.反対125.欠席棄権8)されたため、小泉純一郎内閣総理大臣(当時)は衆議院を即日解散した。

その後2005年9月11日に投開票が行われ、与党が327議席(自民党が296議席・公明党が31議席)と圧倒的勝利を収め、第163回特別国会で同内容の法案が再提出され、20051014日に可決、成立した。

 

2006年6月28日、法案成立を受けた日本郵政公社は200710月の民営化移行を視野に入れ、2007年3までに1,048の集配局を無集配局に再編し合理化を図る「集配拠点等の外務営業拠点の再編計画」を発表した。

この中で無集配局とされる1,048局の大半は離島や山間地域、過疎地の郵便局であり、郵便物の集配や金融サービスなど地域住民の日常生活に必要不可欠な生活基盤となるサービスを提供している局も多い。

 

「採算性のみを重視したこの合理化計画が実施されると、郵便物の配達にとどまらず、貯金や保険、「ひまわりサービス」など現在の郵便局サービスが低下することとなり、住民の不安が高まっている。また、郵便局機能の縮小は、郵便局員や家族の減少にもつながり、地域経済に与える打撃は極めて大きく、地域の過疎化は勿論、地域破壊に繋がることも懸念される。

 このような地域の実情と住民の声を無視した無計画で唐突な統廃合計画は、非現実的、非合理的であり、真の行政改革にも逆行するものである。また、「民営化すればサービスは良くなる」「サービスは低下させない」などの国会答弁にも反するものであり、到底認めることはできない(沖縄県国頭郡大宜味村議会「集配局の廃止再編計画に反対する意見書」2006年9月25 )。」

 

上記のような郵政民営化に反対する意見書は多くの地方自治体から提出され、そのほとんどに「郵便局のサービス低下」が挙げられている。

次章では郵便局の行っているこれらのサービスのうち、「ひまわりサービス」を主とする福祉的なサービスについて検証する。