おわりに

 本論文は、あくまでも一地方都市での事例である。しかし、フィルムツーリズムという形で、全国から人々の視線を浴びる現象が起こったという事実は大変興味深い。

正直、私自身、ここまで大勢の方々が、邦画『8月のクリスマス』を愛し大切に思っているとは思ってもいなかった。映画を通じて自分の住む町が大好きになったり、誇りをもてたりと、人々の気持ちに与える作品の影響力は測り知れないと感じた。記念館を訪れる人々を精一杯気持ちよく迎え入れようとする人、みんなが大切に思う空間をなんとか守りたいと熱意を燃やす人、フィクションとしての映画が、その町では、作品のストーリーから抜け出し、リアルな活動を生み出した。映画が、エンターテイメントの域を超え、人々の行動、町のあり方にまで影響を与えたといっても過言ではないだろう。

普段、高岡FCは映画以外の様々なジャンルの撮影支援にあたっている。邦画『8月のクリスマス』でのツーリズムの背景には、FCの継続した地道な活動があったといえる。高岡FCの北本氏は、当初から『8月のクリスマス』公開後のフィルムツーリズムを見込んでいたわけではないという。後々、記念館を有料にしておけばと気がつくといった、「行き当たりばったり」な形での活動だとも語る。FCは既存の組織形態を利用した、少人数、低予算での設立が可能なことが、設立ブームの要因の一つだ。一部のFCを除き、多くのFCは、FC活動にじっくり時間と予算を割き、十分な人員で活動しているわけではない。高岡FCと関わるうちに、限られた条件の下、その地域なりに一生懸命奮闘しているといったFCの現状を垣間見たように思う。2007年春、高岡を舞台とした映画が公開予定である。今後益々、高岡の情景が映像として、人々の目に触れる機会が増えることが期待される。

最後に、本論文は以下の方々の協力によって執筆することができた。高岡市観光協会の北本氏、伊藤氏をはじめとした職員の皆さん、インタビューに協力してくださった陣太鼓の中村氏、「町なみを考える藤グループ」の般若氏等、協力してくださった方々に、心からお礼申し上げたい。