第三章
考察
第一節 フィルムツーリズムの特徴
第一項 “線”“範囲”の観光
「ロケ地めぐりに訪れるファンは、高岡中を歩いてくれるため、(普通の観光客と比べ)全然質の違った人たち」と陣太鼓の中村氏は述べる。
第二項 地域への影響
また、前章の三、四、五節でみてきたように、邦画『8月のクリスマス』を通じて、
なお、第二章において、陣太鼓の中村氏が記念館のリオープンを目指し活動中であること、観光協会臨時職員の伊藤氏が記念館に訪れる方々に対して精一杯もてなそうとする姿勢であったことを述べたが、これらの事柄についても注目したい。中村氏、伊藤氏、それぞれ、映画をきっかけに、情熱や熱意をもち活動することとなった。それぞれの人々の周りには、新しい出会いやつながりが生じた。リオープンはまだ実現確定ではない、記念館自体も現在閉館中で伊藤氏は来館者対応を行っていない。しかしながら、映画をきっかけに、特定の人々ではあるが、地域の人々の心に情熱や熱意が生まれたことは、地域の活力づくりの第一歩となったと捉えられるだろう。
第三項 作品に依存する観光
フィルムツーリズムは作品なくしては、成り立たない観光である。作品に依存する観光とは、出演俳優や、ストーリーなどがどのくらい人々の人気を得ているかということに関わってくる。出演する俳優がどんな人物かで、フィルムツーリズムに訪れる客の性別や年齢、雰囲気が違うだろうし、作品の人気具合によってフィルムツーリズムの人気の持続期間も異なってくるだろう。
邦画『8月のクリスマス』においては、俳優且つミュージシャンである山崎まさよしのファンが高岡でのフィルムツーリズムを強力に支えてくれたといえる。陣太鼓の中村氏は、映画を通じて店を訪れる方の多くは「山崎まさよしファンだ」と語り、町なみを考える藤グループの般若氏は、「全国から熱狂的な山崎さんのファンが来ることに驚いた」と語る。さらに、記念館のノートのいたるところに山崎まさよしの愛称「まさやん」が登場するといったように、この映画のフィルムツーリズムを支える人々の多くは山崎まさよしファンであることが伺える。
また、作品に依存するという面では、フィルムツーリズムの人気の持続期間についても指摘することができる。平成17年8月の『8月のクリスマス』記念館の開館から、当初閉館を予定していた平成18年9月30日まで、入館者数は減少傾向であった。日によってばらつきがあり、多いときだと一日に20人から30人、少ないときでは4、5人という日もあった。9月30日からクリスマスまで期間が延長された際には、以前より開館日時が縮小され、土・日・祝日のみの開館となった。特定の人々にとっては、いつまでも忘れられないものとなるが、フィルムツーリズムが永続的に人気を維持することは、稀なことだといえるだろう。
第四項 既存の観光資源との関係
何気ない風景がロケ地となれば、その風景は作品によって新たなイメージが加えられる。既存の観光地がロケ地となれば、それもまた、作品によって新しいイメージが加えられる。
フィルムツーリズムとは、ロケ地を観光資源とした観光である。
第二節
フィルムツーリズムの可能性
このような特徴をもつフィルムツーリズムは、どのような可能性をもつものであるかを最後に述べたい。
前章において、フィルムツーリズムとは、作品に依存するため持続期間に限りがあると指摘した。たしかに依存する側面をもつが、フィルムツーリズムが永続的な観光とならなくても、“線”“範囲”の観光であるため、町を歩くうちに、新しい見所を感じ、それが、再びその町に足を運ぶ原動力となることも考えられる。また、既存の観光地とロケ地といった、観光コンセプトが異なる二重の観光が存在する場であっても、工夫次第では、ふたつの観光が相乗効果を果たすことも可能となるだろう。
現在、『8月のクリスマス』記念館は閉館したが、水面下でリオープンに向けた動きがある。それは、作品を愛する人々から生じた活動である。ある地方の町で撮られた作品が、人々の心を掴み、新しい活動を生み出した。ロケ地となることが、フィルムツーリズム、町の魅力の再発見、あるいは地域の活力の創造といった、さまざまなきっかけを生む可能性に満ちていることをここに提示したい。