第1章                   序論

 

1節  問題関心

 

人間とその他の動物との関わりは多様な形をとるが、多くの場合は『ペット』として生活を共にすることが考えられる。現在もペット人口は増加を続けているという。「ペットは家族である」という言葉が違和感なく私たちの生活の中に溶け込んでいる。

ペットはいかにして家族になったのか。戦後動乱期、家庭で犬を飼うことが流行した。人々は「番犬」を求めたのである。しかし次第に生活に余裕が出はじめてくると、その時代にマッチしたおとなしく、愛らしい犬が求められるようになる。だんだん家の外から内にペットが入ってくるようになる。ペットが常に家族の注意を引き、家族の手をわずらわせる小さな子どものような存在になった。ペットは家族の中心に位置する永遠の子どもとして扱われるようになるのである(中田 2000)。個人志向型の社会傾向により、家族の中の子どもも次第に家族から離れ生活するようになる。そんななか変わらずにそこに居てくれるペットは尊い存在になるのだろう。誰かから必要とされている、世話を焼いてやらなければならないという感情が更にペットへ愛情を注ぎ込む要因のひとつとなったのではないだろうか。

しかしペットとの別れもやってくる。家族の一員として飼っていたペットとの死別は飼い主に深い悲しみを与える。そこでペットの遺体をすぐ土にかえしてしまうのではなく、ちゃんとした火葬を行いお経をあげ供養する『ペット葬儀』への需要が高まってきている。そして葬儀を挙げた後も納骨し、定期的にお参りを行う家族がいる。ペットが生きているときかわいがって大切に世話をするということはわかるが、ペットが死んでからもそのつながりを継続するとはどのような意味があるのだろうか。

ここで人間の葬儀社について言及してみたい。田中は明治大正期における葬儀社の勃興について次のように述べている。明治維新期に産業化の波に乗り、葬儀を「包括的サービス」(田中 2004)とした葬儀社が登場するようになる。そこではそれまでの身分制度を脱するように花をたくさん飾ったり、人をたくさん集めたりと豪華なものであった。そして大正期、その反動として葬儀は簡素化することとなる。これは、葬儀社が需要に応えていくことによって確立された傾向であった。それによって、逆に需要そのものを規定し、創出していく存在へと変容していった(田中 2004)。葬儀をどのように執り行うかまでも葬儀社の仕事へ集約され、「演出というサービス」までも行うようになる。そして遺族の「心のケア」までもが求められるようになってくる。大正期における葬儀の簡素化により悲しみが遺族に限定され、遺族を断片化してしまったことによっても求められたのである。

ペットが家族になったということはペットが死んだ場合、家族を失うということになる。そこで家族を失った悲しみに対処するということも重要な問題となる。人によってはペットロスのように悲嘆の感情を表すかもしれない。またはペットとのつながりを持ち絆を継続するかもしれない。そこでペット葬儀を挙げた家族は何をしていると解釈できるだろうか。

 

 

2節  調査概要

 

本稿での調査は富山県内にある2つのペット葬儀社へ調査依頼し、その中で実際にペット葬儀を挙げ、その後も供養している家族にインタビューしたものである。インタビューはこちらが用意した質問に答えていただく形をとっているが、ペットとの思い出など比較的自由に語ってもらった。以下に2つのペット葬儀社とインタビューした家族の基本情報を提示する。

 

A社  昭和55年創業

 

本社は富山市の空港近く。他にも高岡や魚津、砺波に営業所がある。 

 富山市の場合納骨堂は神通峡そばの「やすらぎの里」、高岡市の場合は金光院というお寺にそれぞれある。毎月第二日曜(やすらぎの里)、第三日曜(金光院)で納骨堂が開放され、「供養の日」(以下「A供養の日」とする)といってペット葬儀を挙げた家族が自由にお参りにくることができるイベントが行われる。「A供養の日」の午後にはこれから納骨する家族のための「納骨供養式」も行われる。「合同慰霊祭」も毎年1度、富山市と高岡市で行われる。

 調査はA社専務のYさんに協力していただき、インタビューも何組か紹介してもらった。、2005年の5月、6月、2006年の11月の計3回、「A供養の日」でフィールドワークとインタビューを行う。

   

●B社  平成6年創業

 

 本社は富山市海岸通りにあり、葬儀は射水市にある小杉セレモニー部で行われる。火葬場は本社、納骨堂はセレモニー部にある。高岡、魚津、黒部にも営業所がある。

 納骨堂は定休日の水曜以外10時から16時まで毎日開放していて、四十九日や普段のお参りでもセレモニー部に常駐する尼僧Oさんが読経を行ってくれる。毎年9月には「合同慰霊祭(以下「B合同慰霊祭」とする)」といって僧侶による読経が行われる。

 調査は20066月、11月にOさんへのインタビューを行う。9月の「B合同慰霊祭」では家族にインタビューを行う。 

   

 

C親子

 

  家族構成:Cmさん(55)、夫、娘Cdさん(33

  ペット情報:リュウ(シーズー)

        享年89ヶ月

        平成8年やすらぎの里へ

初めてCさん親子に会ったのは5月のフィールド・ワークのときであった。Yさんに紹介されて初めて話を聞いたのがC親子だった。話を聞かせてくれという突然の申し出に最初は少し戸惑っていたが、話し始めるとペットとの思い出が次から次へと出てきた。

 

Dさん家族

 

家族構成: Dさん(70)、夫(70)娘、息子

       (現在は夫婦二人暮らし)

  ペット情報: スパンキー(シェットランドシープドック)

         享年10

         平成16

Dさんも5月のフィールド・ワークでYさんに紹介してもらった。話好きそうなDさんとじっと話を聞く夫。バランスが絶妙である。Dさんはとても楽しそうにペットの思い出を語る。特にやいと(毎年6月に高岡で行われる、お灸で具合の悪い箇所を膿ませて治す)の傷口をスパンキーが舐めてしまうというエピソードなど、口では「(お灸の後が)全然膿まなくて意味がなかった」と言いながら、うれしそうに語った。途中亡くなったときの状況を話すと涙を流す場面も見られた。

 

Eさん家族

 

家族構成: 父、母、長女(24)、Eさん(22)、三女、長男

  ペット情報: モア(ゴールデンレトリーバー)

        享年9才

        平成14年

6月のフィールド・ワークでインタビューした家族である。納骨堂の外に置いてあるベンチに座って休んでいる若い女性二人とおばあさんに声をかけてみた。女性2人は姉妹で、私の質問には主に次女のEさんが答えてくれたが、姉妹で話し合いながらインタビューは進んだ。この日は親戚も合わせ家族8人でお参りに来たようだ。途中、ペットの亡くなった年齢などで答えに詰まると近くに座っていた家族に「何才だったっけ?」と聞くシーンも。家族は「二重インタビューや」と笑っていた。

Fさん家族

 

家族構成: Fさん(50代)、夫(60代)、祖母

   (子供が一人いるが、現在東京で就職している。また、テリーちゃんが亡くなった後、祖母と同居する。)

  ペット情報: テリー(シェットランドシープドック)

       享年14才

       平成10年

桜の木の下のベンチで骨壷を持って座っている夫婦に声をかける。インタビューには快く応じてくれた。しかし始めようとすると夫が骨壷を納骨堂に置いてこようかと立ち上がる。私が「いいですよ」というとFさんが「かわいそうだから」と発言する。夫はそのまま骨壷を納骨堂に返しに行った。その間にFさんへのインタビューを開始した。夫は骨壷を置いて戻ってくるが、インタビューの途中で知り合いに会い、一旦席をはずすことになる。

 

Gさん家族

 

家族構成:Gさん(53)、夫(58)、娘、息子

    (現在、娘は結婚して神戸に暮している)

  ペット情報:メイ(シベリアンハスキー)

         享年12歳と11ヶ月

         平成17年4月末

GさんもYさんに紹介してもらった。A社インタビューイーの中で唯一合同火葬(1)を行った家族である。納骨堂2階の椅子に座りインタビューすることになった。

 

Hさん家族

  

家族構成:Hさん(60代)、妻(60代)、娘夫婦

   (ペットがいた頃は祖父母も一緒に暮らしていた。)

  ペット情報:チカ(雑種) 享年10才  平成14B社納骨堂へ

        プレオ(プレーリードック) 享年2才1ヶ月  平成14

        ジョニー(ゴールデンレトリーバー) 享年11才  平成18

        ミンミ(プレーリードック) 現在飼っている。

「B合同慰霊祭」午前の部に参加した家族。式終了後、先に来ていた家族と合流してお参りをしていたHさんにインタビューした。インタビューは新しい納骨堂のHさんのペットたちが納められている納骨棚の前で行われる。

Iさん家族

  

家族構成:Iさん(50代)、妻、娘2

  ペット情報:ジェピー(ヨークシャテリア) 享年11才 平成155

        ピッキー(ポメラニアン)    平成1610

 午前の部終了後、ほとんどの家族がすぐに帰ってしまったので午後の部の式が始まる前に、椅子に座っていたIさん家族にインタビューのお願いをする。式終了後、すぐにインタビューを開始する。家族はペットの命日まで正確に覚えている。

 

Jさん(家族)

   

家族構成:Jさん(50代)、夫、祖母

   ペット情報:タロウ(雑種) 10年前に亡くなる。納骨はしていない。

 

Kさん(家族)

 

   家族構成:Kさん(40代)、夫、娘2

   ペット情報:サクラ(猫) 享年6才  平成187

 Iさんへのインタビュー中、私たちの後方で女性2人が泣きながら話していた。その2人がJさんとKさんであった。ほとんどが家族何人かで参加している中、JさんとKさんはそれぞれ1人きりで参加していた。そして多くの家族が「B合同慰霊祭」が終了したらすぐに帰宅してしまうが、彼女らはパイプ椅子に座ったまま話し続けている。そこでインタビューをお願いし、話を伺った。その後2人には電話による追加インタビューも行った。

 

 

本論文では調査対象となるペット葬儀社とインタビューイーをアルファベットで表記する。ペットの名前についてはそのまま使用するが、すべてカタカナで表記することとする。また、引用中の「、、、」は沈黙を表し、( )で括られた部分は筆者の挿入を表す。