第六章 主体化したオーディエンス

 

第一節 コア・オーディエンス層

 

 第五章で見てきたように、雑誌メディアによる「教育」もあり、オーディエンスは成熟していく。フェス会場では全てにおいて自主性が求められ、オーディエンス達は、自分たちで自分の責任をもって行動している。夏の山の中での長時間に渡るイベントは、熱い日差しや雨、夜になれば寒さに晒されることもある。観客は、どのような天候でも対応できるよう準備・工夫を行なう。フェス開催前の時期にはオーディエンス達は、出演アーティストに関する話題と同様に、今年はどんな対策・工夫を施すかといったアイデアの話題でも盛り上がりを見せる。中には、無防備な格好をしてやってくる人もいるが、それは彼らなりの楽しみ方なのである。フェス会場においてオーディエンスたちは、それぞれの楽しみ方で、自分の面倒は自分で責任を負い、自由にフェス空間を楽しむ。

 

 フェスに参加して驚くことは、会場にごみがほとんど落ちていないこと、そして典型的なロック好きといった格好をした若者たちが、率先してごみの分別をおこなっていることだ。普段の生活ではなかなか見られない光景ではないだろうか。

 

 この驚く光景の訳には、A SEED JAPANが行なう「ごみゼロナビゲーション」の役割が大きい。

 

 A SEED JAPANは環境NGO団体でFRFをはじめ国内の主要な野外ロック・フェスで「ごみゼロナビゲーション」を行なっている。彼らが取り組む環境対策は、会場で廃棄されるごみの削減やリサイクルを「参加型」で実践するものである。来場者やスタッフ、ごみの清掃業者の代わりに「ごみ清掃」を引き受けるのではなく、イベントに関わる全ての人々が、「ごみの削減へ向け協力体制を組む」ことの「手助け」をすることが彼らの活動だ。すべてのイベント参加者の日常のライフスタイルへ「環境保全への配慮」が浸透するきっかけを、様々な形で提示することを目的としている。

 

 フェス会場内には、大きなごみ箱がとても目立つ格好で、しかも広場の中央などに設置されている。さらに、会場内にくまなく設置され、2005年FRFの場合は会場内に全部で24箇所に設置された。ごみ箱には、分別方法がパネルで紹介されているだけでなく、「ナビゲーター」と呼ばれるASJのボランティアスタッフが2名〜3名常駐し、観客がごみを捨てようとすると、ごみの分別の仕方をこと細かく説明してくれる。例えばペットボトルを捨てようとすると、ラベルをはがし、キャップを外し、ラベルとキャップはプラスチックごみ、ボトルはリサイクルへ分別する…ということをボランティアが「ナビゲート」してくれる。まわりが皆そのように分別を守っているので、自然と分別を行なえる空気がフェス会場にはある。

 

 また、ASJボランティアの活動はごみ箱前での分別ナビゲートだけではなく、NGO団体としてブースを構えたり、ライヴの合間にステージに立ったりして、さまざまな方法で来場者に対し自分たちの活動をPRし「ごみゼロ」について考えてもらえるよう呼びかけている。そして、会場に入って配布されるごみ袋もASJのオリジナルで作成しているものだ。ごみ袋は毎年スポンサーと協力して作られており、各フェス会場で一年前に出たペットボトルがリサイクルされて作られている。ごみ袋には、会場内でのごみ分別方法や、分別されたごみのリサイクル利用法などについて書かれていて、ここでも「ごみゼロ」への呼びかけが行なわれる。また、デザインも普通のごみ袋と違ってとてもオシャレなので、来場の記念にごみ袋を欲しがる人もいるくらいだ。

 

 このように、彼らの活動は「クリーン」なフェスとして成功するための大きな役割を果たしている。また、「参加型」分別を実践することで、来場するオーディエンスたちに対して、自分たちがその「クリーン」を作り上げているという主体的な意識が持てる要因としての働きも果たしているのではないだろうか。

 

 しかし、この後にも述べるが、2005年FRFは過去最大の動員を記録したのだが、「ごみの分別が例年に比べるときちんと行なわれていなかったのではないか?」「クリーンさを保てていなかったのではないか?」という問題に突き当たる。

 

 

 

第二節 調査対象サイトに関して

 

インターネットが重要な情報ソースの一つとなった現代、ロック・フェスでもインターネットが主要な情報ツールとして大きな役割を果たしている。各フェスは主催者が運営する公式サイトを持っており、そこでいち早くフェスの情報を公開し、主催者から参加者への開催表明や注意事項等が詳細に掲載される。公式サイトは、フェスが開催されるまでの間、主催者と参加者をつなぐ情報パイプとして重要な場となっている。参加者は、フェスが近づくにつれ、頻繁に更新される情報を逃さないよう、何度も公式サイトにアクセスし、情報をキャッチする。公式サイト以外にも私設で運営されるフェス・サイトが数多く存在する。私設サイトでは、管理人が参加者としての立場からフェスに役立つさまざまな情報を提供している。持ち物や服装、フェスに参加するに当たっての心構え等のアドバイスを、実際にフェスを経験した参加者からの情報として得ることが出来る。フェスに参加する前に抱く悩みは、公式・私設のサイトを色々と巡ることによって大抵は解消することが出来るのだ。

 

オーディエンスの主体的な行動を見る材料としてインターネット上でのこれらのやり取りに注目し、コア・オーディエンスの果たす役割について分析を進める。フェスに関するサイトは、数多く存在するが、本調査では、[fujirockers.org]、[ソーシャル・ネットワーキングサイトmixi]の二つのサイトについて分析をおこなう。両サイトとも、オーディエンスによる自発的な経路によって開設されたものであるが、ある程度大きな規模であり、アクセス数も多く、BBSでは一定的に頻繁な書き込みのやり取りが行なわれている。これらの点から、分析に適したウェブサイトであると判断した。各サイトについて、詳しく見てゆく。

 

1.[fujirockers.org](フジロッカーズ ドット オルグ)

 FRFのオフィシャルファンサイト。サイトの運営は主催者が行なっているのではなく、ボランティアによって行なわれている。「Fuji Rock Festivalを愛する人々のネット上でのコミュニティとしてこのサイトを成長させ、同時に、よりよく楽しいフェスティヴァルを形にするために、可能な限りの情報を主催者から引き出し、同時に経験者たちから情報を集め、それをここで交換していこうというのがこのサイトの目的」(http://www.fujirockers.org)としている。

サイト内の掲載内容は以下のとおりだ。

 

【ニュース】

オルグスタッフからの最新FRF情報や、関係者へのインタヴュー記事、その他フェスに役立つ情報(持ち物リスト、エコの取り組みの紹介、ごはんマップ、よくある質問・回答など)が特集を組まれて、頻繁に更新される。このサイトのメインスペース。

Together BBS】

フェスティヴァルを通じてみんなが助け合い、つながりあうためのフリートークBBS。

Voice BBS】

参加者の声をフジロック主催者、関係企業や団体に届けるために作られたBBS。フジや関連イベントへの意見などが寄せられる。

【フォーラム】

アーティスト希望・チケット売買・質問等を書き込むためのBBS

FUJI ROCK EXPRESS】

オルグスタッフが、フェス当日にFRF会場からオンタイムで現地の様子をレポートする。特集ページ。朝から夜まで、フェス開催期間中即時更新される。フェスに参加することが出来なかった人も、フェスの模様をリアルタイムで知ることが出来る。

 

 

2.[ソーシャル・ネットワーキングサイトmixi](ミクシィー)

ソーシャル・ネットワーキングサイトとは、「ネット上で知人ネットワークを構築するサービス。多くの場合、既存会員からの紹介によってのみ入会できる。友人同士の情報交換や、『友人の友人』へのアクセスなどが可能。2003年にアメリカで発祥し、ビジネスや趣味の人脈作りに利用されている。知り合い系サイト。」(三省堂国語辞典)のことで、[mixi]は、株式会社イー・マーキュリーが運営、2004年3月3日サービスを開始した。「招待」による参加のみを認め、従来の米国型のソーシャルネットワーキング機能に加え、独自の日記機能を提供している。「招待」による参加に限定していることで、従来のソーシャル・ネットワーキングサイトでは、何らかの共通の興味や目的を持つユーザーの出会いを提供していたが、[mixi]は知らない人同士が接触するのではなく、すでに知っている人と旧交を温め、さらにその知人を通じて新しい知りあいを得ることにより、知らない人同士の出会いによる危険を回避するよう設計されている。2005年8月には、ユーザー数100万人を突破した。

 

 

(資料4)mixiユーザーについて

□ユーザー数            :1,000,000人(2005年8月1日現在)

□ユーザー属性

    ■年齢

    10代   4.2%

    20〜24  28.8%

    25〜29  30.3%

    30〜34  19.6%

    35〜39  8.7%

    40〜44  3.8%

    45〜49  1.5%

    50〜   3.1%

    ■性別

    男性   55.2%

    女性   44.8%

□日記総数              :約2900万日記(1日約20万件の日記が更新されている)

□コミュニティ数           :225,000(2005年8月1日現在)

□コミュニティに立てられたトピック総数:1,596,000 (=1日約1万件)

□コミュニティへの書込み総数     :15,060,000 (=1日約10万件)

□携帯電話の利用ユーザー数      :約20万人

□最終ログイン3日以内        :70%

□一人が一日に見るページ数      :50ページ (5000万PV / 100万人)

(2005年8月3日 イー・マーキュリー プレスリリースより)

 

【コミュニティ「FUJI ROCK FESTIVAL」】

[mixi]には娯楽・知識・生活・グループ・芸能・イベント…など26のカテゴリ分けにさまざまコミュニティが設立され、約44万件が存在する(2005年12月現在)。[mixi]参加者は、自分で好きなコミュニティにメンバー登録をし、コミュニティ内のBBSで様々な話題で意見交換をしたり、そこで新たな知り合いを増やしたりして楽しむ。ロック・フェスやFRFに関するコミュニティも多数結成されており、それぞれ仲間同士で交流を深めている。

 

コミュニティ「FUJI ROCK FESTIVAL」は、2004年7月6日に開設され、約7,100人がメンバー登録している(2005年12月現在)。「FUJI ROCK FESTIVAL関連ならなんでも」をテーマにしたコミュニティ。「フェスティバルという文化のパイオニアであり、(略)日本が誇る文化。 仕事の合間ちょっとした時間の合間でFUJIについて語り合ったり、気のあう仲間を見つけたりしましょう!(Candle JUNEさんや、プロスペリタさんのような)フジロック関係者の書き込みも歓迎です!当コミュニティの運営管理?は、【FRF同様に登録しているみんなに大きく委ねています。】」(「FUJI ROCK FESTIVAL」管理人 2004:http://mixi.jp)

 

コミュニティ内BBSでは、FRF開催前には、出演アーティストのタイムテーブルに関する情報交換や、持ち物・服装などのアイデア交換、などが活発に行なわれ、開催後になると、ライヴの感想話や、フェス全体で感じたことなどの話題で盛り上がる。書き込みトピックは2005年10月現在で約100件におよび、それぞれのトピックにレスをつける形で、メンバー同士のやり取りが行なわれている。レス件数が100件を超える主な書き込みトピックを以下にまとめた。

 

 

(資料5)コミュニティ「FUJI ROCK FESTIVAL」内の発言件数100件を超えるトピック

「トピック名」 (書き込みされている期間) 発言数

FRF開催前の書き込み

「【05】情報、噂話はここへ」(04.07.06〜05.06.25)129件

「【総合雑談】フジロック05」(04.11.11〜05.09.21)217件

「宿、民宿にまつわるエトセトラ」(05.02.07〜05.07.23)147件

「決定☆出演者」(05.02.17〜05.07.15)260件

「[フジ・グッズ]必須?あると便利?なものを教えてください」(05.03.26〜05.07.28)171件

「会場での服装」(05.04.12〜05.07.28)131件

「【フジロック質問相談―総合】」(05.06.02〜05.07.30)206件

「今日のNAEBA」(05.07.19〜05.08.10)118件

「【現地飲み2】ここで飲むぞ!仲間募集」(05.07.23〜05.08.12)108件

FRF開催後の書き込み

「ベストアクト&名場面」(05.08.01〜05.10.20)298件

「フジで感じたマナーについて」(05.08.02〜05.08.16)138件

「感想話【目撃!編】」(05.08.01〜05.08.08)149件

「フジ日記を書いた人います?」(05.08.02〜05.10.11)287件

「【フジロック後遺症】」(05.08.08〜05.09.23)262件

「早速来年10周年!希望アーティストを!!」(05.08.08〜05.09.27)255件

 

 

これらのサイトに設置されたBBSでの書き込みについて成熟したオーディエンスによる主体的な行動を分析していく。

 

 

 

第三節 分析

 

第一項 オーディエンスによるオーディエンスのマナーに対する指摘

 

FRF ’05開催直後から、FRFで感じたマナーの悪さを指摘する書き込みが見られるようになる。[fujirockers.org]に設置された「Voice BBS」では、7月31日にはFRFから帰宅した参加者から、怒りも収まらないような感情で、モッシュ禁止を求める書き込みがされる。それに続くように、モッシュや喫煙、ごみ分別などフェス会場で感じた観客のマナーについての意見が多く書き込まれるようになる。FRF直後このような指摘の声が絶え間なく続く。モッシュとは、ライヴ演奏中に観客が盛り上がり、混雑した状態の中で押し合い圧し合いになる行為のことであり、周囲の他人にも迷惑・危険な行為であるとして、主催者は禁止まではしていないが、それらが原因で事故・怪我等を負っても責任を負わないと注意している。

 

8月2日には以下のような書き込みも見られ、今年のFRFではごみの分別があまりできていなかったのではないかという書き込みも多く見られた。オーディエンスによってオーディエンスのマナーの悪さを指摘するという行為にも主体性の意識の強さがあるからだと思われる。

 

 

[907] 夢の跡 :***:2005/08/02(Tue) 02:15

 

今回初めてのオートキャンプ

最終日の夜の帰りに誰もいなくなった

グリーンステージを横切って帰ったのですが,

シート,ゴミ,イス,タオル等ものすごい

ゴミの山でした.

世界一クリーンなフェスと言われていても

これが現実かとちょっと考えさせられました.

携帯の電池が切れていたので写真が撮れなかったけど

あの写真を撮るべきだった.

.org 2005: [V]907)※

 


《※抜粋の標記について》各抜粋に付けられた分類標記は以下の内容を表している。

 例:(.org 2005: [V]907)

(引用サイト 書きこみ年:[掲示板の名称] BBS内の書き込み通し番号)

略記の内容…

サイト名: .org    =fujirockers.org

mixi FRF =mixiのコミュニティ「FUJI ROCK FESTIVAL」

掲示板名: [V]        =Voice BBS

[ma]       =トピック「フジで感じたマナーについて」

原文の書き込みにはハンドルネームで書き込みが行われているが、引用ではすべて名前を伏せて表示した。


 

[fujirockers.org]と同様に、[mixi]のコミュニティ「FUJI ROCK FESTIVAL」でもFRF ’05終了直後、「マナーについて」のトピックが立ち、2005年FRFにおけるオーディエンスのマナーについてさまざまな議論が広げられる。次はそのトピックの最初の書き込みである。

 

2005年08月02日

20:03  フジで感じたマナーについて

  ***

 

フジロックが終わって 現実の毎日がやってきて、

フジでの出来事が 夢のような、そしてまた来年が楽しみです。

 

楽しかった話が多い中 こういうトピックで

嫌な気分になられるかもしれませんが

今回のフジロックで マナーについて 色々感じました。

 

ライブが始まる前、ライブ中に、

ステージ近くで、周りに人が沢山いるのに

喫煙をされている方が いたこと、

 

そして、あまり気分がよくなかったのが

ライブ中の写真撮影です。

Sigur Rosのライブを 観ていたのですが、

ライブが始まる前も、ライブ中も フラッシュが

光ることがあり、  残念でした。

また他のライブのときも、堂々とビデオカメラで

撮影をしている人がいたりして 驚きました。

 

Sigur Rosのステージは 素晴らしかったです。

だから 余計に残念でした。

 

みなさんは こういうことについてどう感じますか。

かたい感じのする意見で すみません・・・。

mixi FRF 2005: [ma]00)

 

このトピックに対し、次々とレスがつき、8月16日までに138件のレスが書き込まれた。モッシュ・ダイブ行為について、ごみのポイ捨て・分別について、トイレ、喫煙など、参加者がFRFで感じたさまざまなマナーに関することが書き込まれている。書き込みで語られているマナーの種類を次のように分類した。(表4)

 

 

(表4)トピック「フジで感じたマナーについて」書き込み内容の分類

分類

発言数

内訳

マナー全般

39

 

ごみ

44

 

喫煙

25

場所 12件、ポイ捨て 5件、歩きタバコ 5件

モッシュ・ダイブ

24

肯定 17件、否定 7件

写真撮影

18

 

トイレ

14

 

薬物

 

痴漢

 

電話

 

10

その他

30

 

 

 

1、マナー全般

FRFで感じたマナー全般について語っているような内容。今年はマナーが悪かった、年々低下している、マナーは一人ひとりの意識の問題だ・・・など

発言例)

「フジ経験の浅いわたしも確実に今年はなんだか秩序みたいな物が崩れた感じがしました。」(mixi FRF 2005: [ma]14)

2年ぶりのフル参加でしたが、どう贔屓目に見ても 今年は個々のマナーと自分さえよければ的な意識が目に付く事が多かったように思いました。」(mixi FRF 2005: [ma]32)

「去年と比べ、マナーが低下していることは感じました。そしてそれが原因で自分を含む皆のキリキリとした感じは印象として受けていました。」(mixi FRF 2005: [ma]49)

 

2、ごみ

会場内では、もえるごみ、もえないごみ、缶・ビン、ペットボトルなどの分別を行い資源リサイクルに取り組んでいる。ごみの分別をしていなかったことや、やポイ捨てが目立ったこと、についての書き込み。

発言例)

「落ちているゴミの多さにびっくりしました。(略)フジに来る人はマナーが悪いって思われないようにきちんと自分のゴミは自分で片付けて欲しいとおもいました。」(mixi FRF 2005:[ma]3)

「朝方のグリーン&レッドの一面はゴミ捨て場のようでしたよ…去年まではそんなに落ちてなかったんで、ショックでした(TДT)あれだけゴミ捨て場があるのに、なんでそこに捨てられないんでしょう?残念です。」(mixi FRF 2005 :[ma]4)

「ゴミはたしかに多かったですね。確かに、年々ゴミが増えている気がします。。。」(mixi FRF 2005: [ma]50)

 

 

3、喫煙

会場内での喫煙マナー(禁煙場所での喫煙、ポイ捨て、歩きたばこ)についての内容。喫煙者の立場、非喫煙者の立場、両方からさまざまな意見が見られる。

発言例)

2005年08月02日

21:22

     5: ***

私はホワイトでライブ見てて、後ろに下がっている途中、煙草吸っている人に気付かず前を通り過ぎようとしたら、手の甲に煙草がジュー・・・

びっくりして「あつっ!」って言ったのですが、その人は「はぁ?」みたいな顔をし、軽く会釈しただけだったのでした・・・(怒)

 

私も喫煙家ですが、その辺は凄い気をつけていましたよ。

 

当然禁煙スペースで吸うのはもってのほかだと思いますが、

良い場所で吸ってても近くに居る人に「煙草吸う人多いよね〜」なんてこれ見よがしに言われると「でもこの場所はOKでしょ。。。」と心の中で思いつつ、肩身が狭かったです。

禁煙スペース以外だったら許して欲しいなぁぁ・・・

―以下省略―

(mixi FRF 2005: [ma]5)

 

 

4、モッシュ・ダイブ

モッシュとは、ロックなどのライヴ演奏中に、鮨詰め状態の観客が盛り上がって、互いにぶつかり合ったりして踊ること。ダイブとは、もみ合う観客の波に飛び上がって人の上に乗りあがる形になること。怪我や事故につながりかねない危険な行為であり、主催者は「モッシュ・ダイブ等、お客様自身の責任において負傷された場合、(略)一切、責任を負いません。又、左記行為等により第三者に対する事故、傷害等を起こされた場合も当事者間で問題解決して頂きます。尚、主催者は協議等問題解決には一切関与致しませんのでご了承ください」(SMASH:2005)と、注意事項の最初に言っている。観客の中には、モッシュ・ダイブを迷惑に感じる人もいれば、節度を守って楽しんでいる分には問題ないと考える人もいて、フェスに限らず、オールスタンディング形式のライヴでは、常に問題になる点である。

発言例)

2005年08月02日

23:16

    23: ***

ライブだから。フジだから。テンション上がって仕方ないことなのですが。

 

モッシュ。あれ、私すごく嫌なのですよ。

テンションあがるし楽しいしホント、仕方ないとは思うのですが

頭上に硬い靴履いた足が飛んできた瞬間、ライブに集中できなくなって怯えてしまいます。

 

それは顔を思いっきり蹴られた事があるからです。眼鏡も飛びました…(奇跡的に拾えましたけど)

というか蹴られなくても痛いですしね。

私の目の前にいた小柄な女の人なんてモッシュが来る度に身体を縮めて怯えていましたよ…。

 

盛り上がりもあるでしょうし、モッシュが100%悪いとは言いません。

しかしもっと足を上に上げるとか気を使ってほしいです…。

それよりなによりちゃんと曲を聴きましょうよ…と思いました。

 

モッシュされた方気分を害したらごめんなさい。

ただ、私は嫌だなあと思うだけです。

 

あと皆さんが言ってらっしゃるようにゴミは確かに目につきましたね。 

(mixi FRF 2005 :[ma]23)

 

5、写真撮影

フェス会場内へのカメラ・ビデオカメラ等の持ち込みは可能だが、出演アーティストの撮影や、ライヴの録音は一切禁止されている。ライヴ中の撮影というルール違反についての内容

発言例)

LIVE中にステージに向かって携帯やらカメラやら上に掲げてパシャパシャパシャパシャ…何を考えてるんですかね?」(mixi FRF 2005: [ma]25)

 

6、トイレ

トイレの使い方が汚かった事や、男性が木陰で立ちションをしていたこと、についての内容

発言例)

「男性の方の外でのトイレ やめてほしいな…と。(略)やっぱり不快感はぬぐえなかったです。」(mixi FRF 2005: [ma]29)

 

 

7、薬物

大麻、マリファナなど麻薬を服用している人がいたことについて

発言例)

「目の前にいた人たちが大麻吸ってました。やるなとは言いませんが、人に迷惑かけないでほしい。そしてびびるくらいならやらないでほしい(略)みんながつくり上げるフェスだという自覚をもっと持って欲しいです」(mixi FRF 2005:[ma] 121)

 

8、痴漢

ライヴ中、混み合った状態で痴漢行為があったことについて

発言例)

「痴漢たまーにありますよね。蹴られるとかよりあれが一番不快だと思う。」(mixi FRF 2005: [ma]53)

 

9、電話

ライヴの演奏中に、携帯電話が鳴ったり、会話を始めたりする人がいたことについて

発言例)

2005年08月02日

21:31

     7: ***

ゴンチチ観てる時に、最前列近くで携帯の着信音鳴らしたあげく、演奏中なのにでかい声で喋ってた奴がいました。

 

「今ゴンチチ観てんねんゴンチチ。ええで〜」

 

ええと思うんやったらアーティストにも聞こえそうな声で喋るな!

後ろで喋れ! 

(mixi FRF 2005: [ma]7)

 

10、その他

キャンプサイトでのこと、会場内レジャーシートでの場所取りのこと、ライヴ中の投物行為、泥酔、傘、運転マナーなど

 

 

 

このように、FRF ‘05開催後さまざまなマナーに関する批判や意見が書き込まれている。マナーの悪さを語るということは、オーディエンスがただの参加者としてではなく、主催者にも近い意識で主体的にフェスに参加している意識があるからだと考えられる。

またさらに、マナーを語るオーディエンス達の書き込みから、マナー以上に、フェスに対してどのような思いを抱いているかということも、読み取ることが出来る。

 

 

 

第二項 オーディエンスの主体性の強調

 

オーディエンスはマナーが悪かったことを、ただ文句や愚痴のような内容で書き込んでいるだけではない。さらに主体的な意見として、それに対し思ったこと、今後やるべきことなどを、自分なりの考えを持って書き込む姿勢が見られる。

 

1、呼びかけ

 BBSを読んでいるFRF参加者へ「ごみは自分で拾おう」「マナーを守って、気持ちいいフェスにしよう」といったことを呼びかける書き込み。

発言例)

「いろいろな場所でマナーについての書き込みがありますね。 セキュリティー、ゴミについて。。。(略)参加者へ、マナーについての意識付けが大事だと思います。」(mixi FRF 2005: [ma]2)

「とにかく自分で出したゴミは持ち帰る!これは、山、川、海、どこでも共通のルール!ルール守ってフェス楽しんでいる奴もいるんだから!フジロックは学校じゃないんだから誰も注意してくれないよ!でも、あなたの行動はみんな見てるヨ! 」(.org 2005:[V]1027)

 

2、フェスを「作っている」意識

呼びかけと似たような意識として、自分たちもフェスを作る一員なのだ…ということが読み取れる書き込みもある。

発言例)

「ポイ捨てなんてかっこ悪くてできませんでした 雨とか人とかもあると思うけど、みんながそれぞれでつくるのがフェスやイベント、 ライブだと思います」 (mixi FRF 2005 : [ma]100)

「『一人一人がフジロックを作るんだ』っていう意識は、もう一度考え直さなくちゃならないのかな、ってふうに感じてます。 あとはこれをどうやって伝えていけばいいのか、ですね。」(mixi FRF 2005 :[ma]108)

 

3、意識の温度差

 リピーターとして参加しているコア層が、マナーを守れないのにフェスにやってくる観客に対して、抱いている感情を表している。

発言例)

「少なくとも自分の後始末位はちゃんとできないなら FUJI来る資格なし、とハッキリ思った5日間でした…。ちょっと悲しかったなぁ…。」(mixi FRF 2005 :[ma]32)

「周りの迷惑考えられない人は苗場に来ないで欲しい、というより部屋でひとり、音楽を楽しんで欲しい。」(mixi FRF 2005: [ma]50)

「新規参加者へ 来る前に注意事項をちゃんと読みましたか?ゴミくらい分別できますよね?喫煙マナーを守るよう書いてありましたよね?渋谷に遊びに行くのとは違うということをちゃんと理解して来て欲しいと思いました。 わたしが初めて参加したときは雨対策も万全にして出かけていったと思うのですが・・・残念です。」(.org 2005: [V]1007)

「初めての人にとっては、装備と心の準備ができていなかった分だけ、あれでも不満なのでしょうね。あの程度靴が汚れるのも嫌な人はですね、FRF向いてないわけではなくて、単に慣れていなかったというだけ、装備と心の準備ができていなかっただけですので、来年もぜひ。タフになってる自分を発見できます。」(.org 2005:[V]1055)

 

4、初心者としての意見

 書き込みを行なっているのは、何度もフェス経験を重ねているコア層だけではなく、初めてフェスに参加した人たち書き込みしている。初参加の彼らもマナーについてはさまざまな感情を抱いている。

発言例)

「今年初参戦でした。(略)他のマナーについても、Love&Peace、それから正義を持って、助け合って楽しめればいいなと思います。フジに限ったことではなく。」(mixi FRF 2005: [ma]66)

「自分もはじめてフジ行った者です。 ゴミ問題については、正直『やっぱりこんなもんか…』と残念に思った事が多々ありました。 フジロックはゴミの分別やリサイクルについていろいろ取り組んでるという評判があったので、期待してたのですが、実際にはまだ改善の余地があるところが多いと思います。」(mixi FRF 2005: [ma]73)

 

5、苗場への危機感の薄れ

97年天神山での失敗、98年妥協の東京開催、99年から再び自然の中の苗場で開催できることになったFRF。当時から参加しているオーディエンスたちにとっては「苗場を失ってはもう次に開催できる場所はない」という危機感に似た意識がある。そのため、毎年心地よく過ごすためにマナーを守り、クリーンなフェスを目指し、苗場を追い出されないよう、また来年も苗場に戻ってこられるよう、努力するのだ。しかし、苗場での開催も定着し、中には当然のことのように毎年苗場で開催されると思っているオーディエンスもいるようになった。このように開催の安定化がオーディエンスの意識を低下させ、秩序を乱すことに繋がった、と指摘する声もある。

発言例)

「昔はゴミが問題になんかなったら次の年は開催できないのではないかという危機感と、もっとお互いのことを思いあえる空間があったように感じます。」(mixi FRF 2005 :[ma]47)

「ここにきて、いまさらゴミ問題なんて初歩的な事で、苗場での開催が存続できなくなったらどうしよう。本気で思います。 どうしてFUJIが富士山の麓でできなくなったのか、富士山の見えない苗場に来たのか、10年も立てば知らない人が出てきます。 だから(?)、せめてこのコミュに入ってる方たちだけでも、ちゃんとできれば・・・と思います。1人ができれば、同行者は必ず賛同してくれると思います。 そうやって波及していけばいいな、と思います。」(mixi FRF 2005: [ma]85)

「せっかくボードウォークもあそこまで完成し、あの環境下で音楽を聴くことができる場所は、もう苗場しかないでしょう。 次の場所など、おそらくないと思います。 苗場を失ったら、フジロックが無くなるのではないでしょうか。 大げさかもしれませんが、個々人で改めて考えなくてはならないと思います。」(mixi FRF 2005:[ma]86)

 

6、ジレンマ

マナーを守らないオーディエンス、意識の低いオーディエンスが登場したことにより、全てを参加者の自主性・主体性に任せておいては、秩序は乱れていく一方だから、そのために、主催者による規制やルール作りを求める意見も出るようになる。しかし、やはり規制で縛られるのはただの「イベント」に成り下がることであり「フェスらしくない」という意見があがる。彼らにとっては、一人ひとりが高い意識を持って自由に楽しむ空間を作り上げることこそ、「フェスティバル」なのだ。

発言例)

「なんか、こういうトピたつだろうな〜とは思ってたけど、悲しいことですよね。せっかくのフェスなのに。全ての人にいい気持ちにさせることなんて不可能かもしれないけど、ここで挙げられたことって、下手すれば自分達の首をしめることに繋がってしまうわけで。ルール無しでマナーを守れない人達のためにルールができてしまうんですよね。」(mixi FRF 2005: [ma]9)

「こんな簡単なルールも守れないともっと規制されて自由がなくなってしまいフジロックがフジロックでなくなってしまう、そんな危機感を感じました」(mixi FRF 2005:[ma]33)

「ほんの少しのマナーと、お互いを認め合う大らかさと、責任感があればそれだけで素晴らしい場所が作れると思います。早く結果を出すのではなく、少しずつ気持ちを変えていく。フジロックはそういうやり方をしていただきたいと強く思います。」(.org 2005: [V]1156)

「>主催者はもうちょっと参加する側にちゃんと言うようにしないとモラルの低下は防げない・・

そうかな?上から押し付けられて皆が言うこと聞くっていう考え方は学校みたいでフェスティバルにはなじまないんじゃない?」(.org 2005: [V]1166)

「>1166 その雰囲気ってのを全然作ってないわけで・参加する側のモラルにある程度任せた結果マナーの低下があるのではないでしょうか?」(.org 2005:[V]1173)

 

 

 

第四節 まとめ

 

当日のフェス会場にはごみ分別を呼びかけるボランティアが存在し、彼らもまた、フェスに参加するオーディエンスたちと同じ立場で、フェスを作り上げる役割を果たしている。彼らの活動に支えられ、オーディエンスはフェスを作っている「意識」を、一つの「行動」として感じることが出来る。また、フェスに慣れていない初心者のオーディエンスたちも、フェス・オーディエンスの主体的な姿勢を眼にすることができ、自らもそのような行動を取ろうという参加意識につながる手助けをしている。

 

インターネット上ではオーディエンスたちが積極的に情報収集・交換を行なっており、参加意識の高さが読み取れる。観客として、フェスをただ見に行くだけであれば、このような意識にはならないだろう。ただの観客でいるだけでいいのであれば、持ち物や服装については自分で環境に合わせることはしない。観客がどのような持ち物、服装であっても快適にライヴを楽しんでもらえるような会場作りをするのは、運営者側の仕事である。しかし、フェスの場合では、参加者があらゆる状況でもフェスを楽しめるように、自ら行動し、ものを揃えたり、心構えをしたりしなくてはならない。そのための情報交換をフェスのオーディエンス達は、自ら行なっているのだ。

 

また、情報を提供するのは主催者や関係者だけではない。フェスに観客としての参加経験のある者から、初心者へとアドバイスをする形が一般的で、岡田(2003)の言うように「文化仲介者」がより広範な層へと浸透していっている。そして、彼らの活動によって主体的に参加するオーディエンスたちの「意識」はさらに広範な層へと浸透していくのだ。

しかし、広範な層へと意識を浸透させていくオーディエンスの主体的な行動も、年々ゆがみが生じ始めるようになる。オーディエンスのマナー・モラルの低下が目立つようになってくるのだ。特に2005年のFRFは、2004年に一度販売されなかった「1日券」が復活したこともあり、過去最多の観客を動員し、また天候も雨が続き、参加者のマナーやモラルの低下が目立ったようである。そのことを指摘する書き込みが多く見られ、これらの書き込みが活発に行なわれるのもフェス・オーディエンスの意識の高さがあるからだと考えられるだろう。

 

そして、主体性の高いオーディエンス達には、フェスでは誰にも指図されることなく、一人ひとりがマナーを守って「フェス空間」を作り上げていくという意識がある。しかし、一方でマナーの低下も目立ち始め、再びフェスにおける「心得」を守れない人達が訪れるようになってしまった。

 

 

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