第5章 −「人間密着型」を足がかりに−

 

分析の最後で見てきたように、今回のインタビューではアローズファンクラブの充実や観客動員、Jリーグ入りへの問題点を知ることができた。「プロサッカーチームの誘致と地域振興―静岡県磐田市を例に―」(1998 31頁)の中で久保田は、東北・北陸地方などの中小都市は、球団の赤字経営を補強できる強力なスポンサーを獲得できるか、もしくは行政が財政的にも球団を支えることに対する地域住民の合意形成ができるかという点で、プロサッカーチームの誘致・ホームタウンの形成に向けて大きな問題を抱えていると言わざるをえない、と述べている。

JFLで活躍するチームにとって、このような問題が山積みであることは確かなようだ。またJFLがいかに認識されているかの問題もある。認識の低さゆえに、観客の人数が増えないという結果につながってしまうのだが、しかしアローズのファンクラブを調査していくなかで、その少人数ゆえの利点も見えてきた。分析で述べたように、サポーター同士、またはサポーターと選手の間のアットホームな雰囲気である。そして、アローズを応援する多くの人々が、このアットホームな雰囲気を感じ取り、居心地がいいと語っていた。GさんやKさんが語ったように、大規模な試合を観戦する際に感じる「お客様」のような感覚ではなく、「自分も」参加型の応援がそこにはある。「自分も」参加型の応援は、多くの人々とのコミュニケーションを生み出し、一体感やアットホーム感に寄与しているように思う。たくさんの人々と触れ合うことのできる社交場のような雰囲気が試合会場の応援席には流れているのである。また、他人を快く受け入れ、すぐに一緒になって応援できることもアローズサポーターの特筆すべき点のように思う。

しかし、そのアットホームな雰囲気が流れる中にもしっかりとした応援がある。Kさんがインタビューの最後に語ったように、「決してぬるいというわけではない」のである。選手たちの応援ソングを全員分考え、それを1枚の紙にまとめて、試合会場で来場者に配布したり、自分の感情よりも選手やチームのことを最優先に考える試合中の応援活動は、Jリーグのチームのサポーターと比較しても衰えることはない。応援席のための会場設営(フラッグや横断幕の設置)、観客に対するスピーカーを使った丁寧な応援の説明など、ある意味ボランティア活動に似た行動もなされている。ある程度の規律が守られている応援とボランティア精神、そしてアットホームだと感じ取れる居心地のよさがアローズのファンクラブには存在しているのである。

最近になって紙面やテレビで、富山にJリーグチームが誕生するかもしれないと騒がれるようになってきた。今回の調査では、アローズがJリーグに入ったほうがいいかどうかは述べることができない。しかし、少なくとも一つの見方として、大規模なサポーター集団では保ちがたいと考えられる「アットホーム感」をアローズサポーター集団が持っており、その魅力は充分対外的にアピールできるのではないか、と考えることはできる。

入倉隆は「サッカーにおけるサポーターの能動的活動について」(入倉 2001: 82-3)において次のように述べている。Jリーグで見られるサポーターの応援は、外から見ると団結した非常に一体化した応援を行っているように見える。しかし、サポーターは決して一つのまとまった団体ではなく、実際には小さなサポーターグループの集合体である。サポーターグループは、同じような応援行動をとりながらも、応援によって、それぞれのグループが個性を発揮しようとする。アローズサポーター集団の場合、人数が少ないため、応援をリードするグループというのはファンクラブを中心とした集団の1つしかない。そのため、観客もその集団に従って手拍子やメガホンを叩いたりする。会場は1つの応援スタイルを通して、本当の意味で一体感を感じ取ることができるのではないだろうか。

それだけではない。第4章第2節で述べたように、アローズにおいてサポーターと選手との距離は非常に近い。また、ファンクラブ組織は溶け込みやすい存在であり、仲間同士が知りたい情報を提供し、共有している。そして少人数ながらも地道で丁寧な応援をしている。こうしたさまざまな要素が「アットホーム感」の源なのである。

確かに、集客率という観点で地域密着が語られるのならば、アローズはJリーグが掲げる理念の1つである地域密着のチームとはまだまだ言えないだろう。しかしアローズの試合会場には、選手やサポーターなどの括りは関係なく、人と人とが多くのコミュニケーションを図ることのできる雰囲気が流れている。そいう意味では、アローズ北陸というチームは、選手やサポーターを含めて、「人間密着型」のチームと言えるかもしれない。この「人間密着型」をサポーター自身が再認識し、メディア等を通して外部にアピールをすれば、爆発的な増加は望めないにしろ、徐々に、確実にサポーターの数を増やすことができるのではないだろうか。そしてより強固なサポーター同士の関係も構築可能である。

これらのアットホームな雰囲気を外部にアピールする方法の一つとして考えられるのは、アローズ北陸のホームページである。インタビューに協力してくれたFさんは、アローズ北陸のホームページについて、「ホームページも会社の管理のため、更新されるペースも非常に遅く、サッカー部だけでやらしてくれとは言っているが、なかなか許可が下りない。しかしここ最近は徐々に改善されている。」と語った。更新される回数は少ないものの、ここ最近では改善されてきている。例えばこのホームページに、分析で述べたような選手やサポーターの間のアットホームな雰囲気を載せ、こまめに更新し、外部に発信するのも一つの方法だろう。その際、ホームページの管理を、会社から切り離してファンクラブに委託してもいいように思う。そのほうがタイムリーに更新され、情報量が多くなる可能性が高いからだ。こまめに更新し、アットホーム感をアピールすることで、ホームページを見た人が実際の競技場での雰囲気を少しでも知ることができたら、興味が沸き、競技場に足を運ぶかもしれない。このような改善点も、観客を増やす手がかりになり得るかもしれない。

また、今回の調査ではアローズを応援する楽しみ方も多岐にわたっていることが分かった。Aさんはインタビューの中で、応援することでストレスの発散にもなると語った。またDさんは、金もかからず、レジャー感覚で楽しめる試合だと語った。第3章でも書いたが、試合のレベルも高く、非常にのめり込むことができ、サッカーをしている人間でも楽しめた。特に、小・中・高でサッカーをやっている人にとっては、お手本のような存在にもなり得るだろう。小学生以下の子供たちにとっては、緑の芝生に直接触れ合う機会が多く存在し、試合会場では、自分たちがスポーツをしているかのように走り回る子供たちもいる。そして応援スタイルを見てもアットホームでありながら、規律もしっかりと守られており、一般の人でもすぐに本格的な応援に加わることができる。

このように、サポーターを含めたアローズ北陸は「人間密着型」を特色とし、様々な楽しみ方が可能であり、お金もそれほどかからず、アットホームな雰囲気に満足を得られる、そうしたレジャーのひとつのあり方として、富山の地域に、そして幅広い年代に対してアピールできるだろう。そして、こうしたアピールが受け入れられることを通して、アローズがコーポレート・アイデンティティからの緩やかな離陸をより確かなものにできるのではないだろうか。