第5章 考察

 

第1節 双方向性の番組の意義

 

 ラジオというメディアにおいて、リスナーからメールやファックス、電話などでメッセージが送られてきて、それを放送するという双方向性のメディアという特徴が挙げられる。これはコミュニティFM放送に限られたことではないが、生放送の番組などでの双方向性の利点についてこの節で考察する。

 ラジオ番組における双方向性について成田(1993)は以下のように述べている。

「ラジオ番組の制作側と聞いている人々との間には、不可視のコミュニケーションの場が成立している。シナリオによるのではなく、聴取者の反応や話題の流れによって番組がその場で作られている。そこには暗黙の二つの了解があり、一つは双方向にコミュニケーションが交わされる、番組の2−WAY性である。実際に番組に電話をかける人はごく一部分であるが、聴取者とスタジオのやり取りによって成立する場の共有感覚はラジオのリアリティの基礎となっている。二番目の了解はラジオ番組の地域性である。地方紙やタウン誌のエリアとも重なる地域生活圏が、送り手と聴取者の共通の話題の基盤であるので、天気の移り変わりの話題などのメッセージは強いリアリティを持つことになる。」

 ここでは番組の2−WAY性、つまり双方向性について、そして地域性について述べられている。ここではリアリティという言葉が用いられ、双方向性の番組、また地域の情報を提供することにより、リスナーにリアリティを伝えることができることが利点であるといえよう。具体的に富山シティエフエムにおいても、どのようにこれらの双方向性の利点が見られているのだろうか。一つの例を部長の宮林さんに聞くことができた。生放送の番組では、中継のときやその他も放送中に外の天気や実際の空の様子などを伝えているが、あるとき急に雨が降ってきたということを放送したことがあった。そのときにその放送を聞いていた人が、ラジオを聞いて雨が降ってきたことに気付き洗濯物を取り込めたというお礼の電話をかけてきたことがあったそうだ。いつもこのような反応が来るわけではないが、狭い一定の範囲の放送だからこそ、リスナーにも近い話題を提供し、それを共有できるというリアリティが生まれるのだろう。共通の話題を提供することで、ラジオのパーソナリティに対しても遠い存在ではなく身近な存在になり、コミュニティFMの地域に密着したラジオ局という目的にもかなうのではないか。

 また富山シティエフエムにおいても様々な番組でリスナーからのメッセージやリクエストを受け付け、それを放送している。それを放送するということにはどのような意義があるのだろうか。そのようなメッセージを受け付けていない番組もあるので、必ずしもラジオ番組には必要とされているものではないのかもしれない。しかし様々な情報を提供し、地域の情報を伝えるという目的から考えても、リスナーからの情報も一つの貴重な情報源なのではないか。さらにパーソナリティの人が言っていることもリアリティがあるかもしれないが、リスナーの実際のメッセージなどを読むことにより、一般の人がどのように感じているのかを知ることができるので、一層リアリティが増すことになるだろう。最近のニュースや出来事について感じていることが放送されると、よりリスナー自身に近い意見が聞けるので、双方向性の番組は、ラジオというメディアをリスナーに身近な存在に感じてもらうための大きな要素になっているといえよう。

 

 

 

第2節       地域に密着したラジオ

 

 問題関心でも述べたが、コミュニティFMというものは地域に密着したラジオ局という売りがあるが、富山シティエフエムではどのように地域に密着した放送にしているのかを調べてきた。第4章でも様々な視点から「ひるどきパンプキン」という番組を分析してきたが、ここでもう一度まとめてみる。

 第4章第2節では、番組の中に様々なゲストが出演しているということを取りあげ、リスナーにとってゲストが身近な存在であることが地域に密着した点なのではないかということを述べた。毎日様々なゲストを呼んでいるということは、地域でも有名な人だけではなく、近所の店の人や、市役所や商工会議所で様々な仕事をしている人などが出演しているので、聞いている人にもそのゲストが遠い存在ではなく身近に感じられるのではないかと思う。また何かの宣伝だけではなく何気ない会話も多くなされているので、自分たちと同じ感覚で聞くことができるのではないか。その点でリスナーにとってのゲストの身近さということは重要なポイントであるといえよう。

 また第3節ではゲスト出演の際の気軽さについて分析した。様々な人にゲストとして出てもらうということは、普段ラジオなどに出たことがない人にも出演してもらうということになるだろう。ラジオというメディアに出るということにハードルの高さを感じてしまう人もいるかもしれないので、ちょっとした宣伝をするのに気軽に出演できるということは多くの人にゲストとして参加してもらうためには必要なことである。ゲストとして出演したときのやり取りの様子にも注目したが、普段話しているような感じでのパーソナリティとの自然な会話で番組が進行されていくという点もゲストとして出演する人に緊張感を与えないものになっているのだろう。またそのような身近な会話ができるということは、ゲストの登場するコーナーの時間にも関係しているのではないかという点にも注目した。出演する時間が長いことによって、宣伝したい内容だけではなく、その人の人間性も伝わってくるような色々な話ができるので、第2節で述べた身近さにもつながるだろう。また、様々な人がゲストとして出演しているので、シティエフエムも様々な人が出入りする場所となっており、そのような場所となることで、さらに気軽にラジオに参加できるようになっていくのではないか。

 さらに第4節では市民参加の役割について分析した。これまで述べてきたような一度きりのゲスト出演という形での参加のほかにも、市民の人がボランティアで番組のパーソナリティを担当していたり、レギュラーで定期的にゲストとして出演している人など様々な参加方法がある。定期的に出演することによって、さらに詳しい情報を伝えることができ、専門的な知識を知ってもらうこともできている。そのようにさまざまな形で市民の人に参加してもらうことによって、より様々な情報を提供することができている。シティエフエムの社員が自分たちで集めた情報を提供するだけでは限界があるだろう。そのように考えると市民の参加によりシティエフエムが作られていくといっても過言ではないので、市民の参加はシティエフエムのサポーターという役割を果たしているといえよう。

 このように第4章でどのように地域に密着した番組がつくられているかという点を分析したが、様々な仕方での市民の参加が地域密着のラジオ局にする上で重要なことといえるだろう。しかし、先行研究でも述べたようにFM西東京や北海道のFMはまなすでは、放送ボランティアという市民がボランティアで番組作りに参加していることが、地域に密着したラジオにするための要素になっている局もある。パーソナリティだけでなく、技術スタッフも担当し、ボランティアだけで番組が進行されているところもあるようだ。それに対して富山シティエフエムでは、市民がパーソナリティを勤める番組というのはそれほど多くなく、その人たち同士でのネットワークのようなものは存在しない。ほとんどはパーソナリティとの対話で番組が進行していくゲストとしての参加である。すべてボランティアが作る番組の方が、より地域に密着した番組になるという考え方もあるかもしれない。しかし、一定のボランティアだけが参加するような番組になってしまうと、番組も偏ったものになってしまうという危険もあるかもしれない。その点でゲストとしての参加は、ジャンルに関わらず様々な人に出演してもらうために最もよい方法かもしれない。しかも気軽に、リスナーにも身近に感じてもらえるような放送にするためにもメリットが多いということも実際に調べることができた。ゲスト出演の際も、自分から出たいと言ってくる人も多くいるようだが、シティエフエムの方から新聞や地域の情報誌などで興味のある人を探して出演してもらうということも多いそうだ。それによりいつも同じ人が出演するのではなく、様々な人がゲストとして参加できる機会も多く開かれることになると思うので地域の人のための、地域に密着したラジオになっているといえよう。

 このようにコミュニティFMが実際に地域に密着しているという実例をみることができたが、これからのコミュニティFMの可能性という点も考えたいと思う。全国的に広まったこのコミュニティFMには何が求められているのだろうか。まず一つには防災の目的があるだろう。これはコミュニティFMが広まったきっかけになるものでもあるが、災害などの緊急時にリアルタイムで被害状況や救援活動などの情報を提供することが必要である。富山シティエフエムにおいても富山市と緊急割り込み放送の契約がされており、災害時にはスイッチ一つで番組に割り込んで情報を提供できる仕組みになっている。200511月7日の北日本新聞にも載せられていたが、災害時におけるコミュニティFMの存在は重要である。そこにはコミュニティFMの割り込み放送の存在自体が十分認識されていないという現状についても触れられていた。細かい情報をいち早く提供するための準備は整えられていても、その情報源を認識されていなければ緊急時にも意味はないだろう。そのためにもコミュニティFMの存在をより多くの人に認識してもらうことは必要不可欠である。

 しかし防災を目的とした放送というのは限られたものである。普段はニュースなどの地域の情報や娯楽としてのメディアとしての役割がほとんどであろう。その中で地域に密着した情報を提供しているというコミュニティFMをより多くの人に知ってもらう必要がある。地域で行なわれている小さなイベントを紹介したり、一部の人にしか関係のないことかも知れないが、どんなささいな情報でも提供していくことが大切になってくるのではないか。「ひるどきパンプキン」を担当している黒瀬さんはインタビューの中で、シティエフエムの存在について「近所の八百屋さん」のような存在なのではないかと語っていた。大きなスーパーのように何でも売っていて、便利にレジを通れば何でも買えるというものではなく、近所の八百屋さんで、自分の必要なものを必要な分だけ売ってくれるような、お店の人や近所の人と何でもしゃべりながら買い物できるような場所にしたいといっていた。確かにコミュニティFMは放送するエリアも狭い分、聞いている人も限られるが、双方向性の利点からも考えると、リスナーの声も反映されやすいのではないかと思う。小さなことでも知りたいと思う人がいるならその情報を提供するのが地域のためのラジオの役割であり、地域に密着した放送をしていることになるのではないか。

 第4章第4節でも述べたが、ラジオとは耳から自然に情報が入ってくるメディアであり、新聞や雑誌のように読むという努力をしなくても簡単に情報を取り入れることのできるという特徴をもつメディアである。この特性を生かせば、あまり知られていない情報を発見することができたり、新たな文化を発信する拠点にするために大いに活用できるメディアになるであろう。この可能性を実現するためにも、今はさらに多くの人にゲストとして登場してもらうことや、スタジオ以外の場所から放送することなど、1人でも多くの人に富山シティエフエムの存在を知ってもらうということに力を入れている段階なのではないかと感じた。それが達成されれば、さらに地域に貢献し、地域に密着した情報を提供できる、より市民に身近なメディアになっていくだろう。

 

 

 

おわりに

 

 今回コミュニティFMの調査ということで富山シティエフエムを調査対象にしたが、最初の構想からは考えていなかったような様々な視点から地域密着という点に注目することができ興味深かった。個人的にラジオが好きで始めた本論文だったが、さらにラジオというメディアのおもしろさを発見できたような気がした。考察の最後にも述べたが、自分の興味のなかった話題でも、その情報を聞くことにより興味をもつことができたり、新たな発見ができると思う。今回の調査のために今まであまり聞く機会がなかった番組も多く聞いたが、富山市内で行なわれている様々なイベントやお店の情報に関して以前よりかなり詳しくなったように思う。こんな団体があったのかとか、あのお店にはこんな店員さんがいるのだという新聞や情報誌などでは気付けない情報を得ることができるのだと自分でも体験することができた。県内にもシティエフエムの他にもいくつかのラジオ局があるが、それぞれに役割も分担されているのだろう。2005年9月には、民放が一緒になって防災の特番が行なわれたことがあったが、そのようなことによってもそれぞれの局の役割というものを再確認する機会にもなるのではないかと思う。テレビなどに比べてラジオというメディア自体があまり注目されることは少ないが、そのなかにあってこれからは得意とする役割を意識し、確立することがそれぞれのメディアにおいて必要になってくるのではないか。コミュニティFMというのはその点においてもまだまだ可能性があるメディアなのだろう。富山シティエフエムにおいても更なる発展を期待している。最後に、調査に協力していただいた富山シティエフエムの方々に深くお礼を申し上げたい。