外国人研修・技能実習制度の理想と現実

――在日中国人研修生の意識への接近――

 

第一章 問題意識  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

 

第二章 中国人研修生に関する諸問題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4

第1節 中国の現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4

    1.中国の失業問題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4

2.中国の出稼ぎ現象・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5

第2節 中国の来日研修に関する政策・・・・・・・・・・・・・・・・・・5

1.中国国内から外国へ出稼ぎ(日本は研修)の流れと費用・・・・・・・・5

2.日本へ研修生になる基本条件・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7

第3節 中国人研修生の国際需給調整システムと中国の管理検査機構・・・・7

1.中国人研修生の国際需給調整システム・・・・・・・・・・・・・・・・8

2.日本へ研修する研修生の中国の管理検査機構・・・・・・・・・・・・・8

第4節 まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10

 

第三章 日本の研修・技能実習制度・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11

第1節 日本の研修・技能実習制度の位置づけと背景・・・・・・・・・・・・11

1.外国人受け入れ政策における研修・技能実習制度の位置づけ・・・・・・11

2.制度創設に至る背景・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11

第2節 制度の仕組みと現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12

1.仕組み・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12

2.現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15

第3節 研修・技能実習制度の問題点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17

1.KSD事件・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17

2.失踪者問題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18

第4節 まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18

 

第四章 研修生の生活と意識・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20

第1節 調査の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20

1.中国人研修生の地元の説明・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20

2.中国の派遣先会社の説明・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21

3.研修生たちのプロフィール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21

第2節 分析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22

1.来日前の経歴・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22

 @学歴・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22

 A職歴・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23

2.来日動機・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23

3.来日経費・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23

4.来日前の情報と知識・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24

    @情報源・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24

    A外国人研修・実習制度に関する知識・・・・・・・・・・・・・・・・・24

B日本社会のイメージと知識・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24

5.日本での生活・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25

@母国情報の知る方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25

A外出・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25

B病気になった時の対応・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25

C住宅・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26

D自己保管しているもの・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26

E研修生間の関係・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26

F日本語習得・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26

G技能・技術の習得・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28

H管理費と積立貯金・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29

I途中帰国の罰金・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29

J問題があった時の解決方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30

K生活上の欲求・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30

L日本人との交流・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30

M日本での生活が研修生にあたえる影響・・・・・・・・・・・・・・・・30

N将来に関する計画、イメージなど・・・・・・・・・・・・・・・・・・30

第3節 まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31

 

第五章 結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33

  第1節 今回の調査を通じてわかったこと・・・・・・・・・・・・・・・・・33

1.中国国内状況の発見・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33

   2.研修生自身の体験からの発見・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34

  2節 外国人研修・技能実習制度の将来・・・・・・・・・・・・・・・・・34

 

参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38

補足・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39

 

1章 問題意識

1980年代後半から日本は「バブル経済」に入り、人手不足問題が顕著に始まった。日本の生産年齢人口が1995年をピークに減少に向かい、人手不足は免れない事実として突きつけられている。

1989年に入管法が改正され、1990年6月1日から施行された「出入国管理および難民認定法の一部を改正する法律」(平成元年法律第七九号)により、外国人の流入がアジア人花嫁、留学、難民、就学、単純労働のようなさまざまな形をとった。2001年には外国人新規入国者は、約423万人となっており、永住権を有する外国人を除いた就労目的の外国人は109万人に達していった(国際研修協力機構 2002:3−4)。外国人労働者問題の顕在化に対して、日本政府は慎重な態度をとり続けている。現在日本政府は外国人の単純労働者の受け入れを認めておらず、22万人以上と言われる不法滞在者の存在や研修制度を悪用した企業による実質的な単純労働者受け入れが現実である。

外国人研修・技能実習制度は、日本の企業が団体などを介して海外諸国から研修生を受け入れ、職場での実務研修の後に母国に帰すことで、受け入れ企業が個別に保有する技術・技能の海外移転を進めて行こうとする制度である(佐野 2002:92)。外国人研修・技能実習制度のルーツは、埼玉県川口市の「協同組合川口鋳物海研会」である。川口地域の鋳物産業は、中小企業が多く、また「3Kを揃える職場」と言われる鋳物産業は早くから人手不足問題に悩んでいる。1979年に中国へ外国人研修生受け入れのための視察団を派遣している。その後、いろいろな努力によって、1983年6月、中国から21名の中国人研修生の第一次受け入れを実現させ、その活動を軌道に乗せている(佐野,2002:99-100)。これを端緒に、1989年に閣議決定された第9次雇用対策基本計画において、「専門的・技術的分野の労働者は積極的に受け入れるが、いわゆる単純労働者の受け入れについては、我が国の経済社会と国民生活に与える影響などを考慮して慎重に検討する」という方針が確認された国際研修協力機構 2002:61989年に入管法の改正によって、「研修」の在留資格が決定された。日本の研修生制度の確立の背景には、世界屈指の援助大国の日本の援助ニーズも多様化してきており、単なる資金援助だけでなく、「経済大国日本の持つ経験・知識・技能」の提供などソフト分野の援助も求められるようになっていることが挙げられる。諸外国、とくに発展途上国の人材養成に協力することを目的として始まった研修生の受け入れは、1980年初頭の1万人程度から1990年の入管法実施の影響もあって、2001年には5万9千人以上と20年間で5倍以上に急増した(国際研修協力機構 2002:6)。研修生は研修ビザで入国し、あくまで技術を「学ぶ」ことに目的を置いているため、労働者とはみなさないというのが日本政府の立場である。1993年、外国人労働者の新しい受け入れ制度として技能実習制度が発足したため、研修生の位置づけ、そして研修制度そのものに対する政府の姿勢がより曖昧で建前にすぎないものになってしまった。つまり、研修を終えて実習への移行を希望する者は、「特定活動」という就労ビザに変更さえすれば、技能実習生として研修・実習あわせて2年以内の期間で「就労」できることになったのである。技能実習生の数は1990年の2,972人から2001年の22,268人で11年間10培近くにも急増している(国際研修協力機構 2002)。日本外国人労働者問題を身近なものとして認識させる契機となった外国人研修・技能実習制度は、日本の経済社会の急激な国際化によって、二つの相異なる性格を有することになる。一つは国際的な「技術移転システム」としての側面であり、もう一つは、同じく国際的な「労働力需給システム」としての側面である(佐野 2002:92)。

ここで一番問題なのは、この研修・技能実習制度そのものが、人材育成を目的にしているというよりは、日本の中小企業の人手不足を解消するために設けられているという面が非常に強いことであり、研修生も実質は労働者として扱われているという現実である。梶田は、「基本的には途上国援助と外国人労働者受け入れという、全く異質な二つの課題を人為的に結びつけて同時に達成しようとするものであり、“ボタンの掛け違い”という印象が強い」と述べている(梶田 1994:46)。

また、伊豫谷は、「研修生制度・技能実習生制度は、名目的には、対外援助政策なのである。しかしこれらは、実質的に、外国人労働者の導入を非公式に容認するものとして機能してきたと言わざるをえない。それゆえ、送り出し国側から見れば、制度的基盤を整備しないままに、日本は実質的な労働力受け入れ政策を実施してきたと言うことになる」と指摘している(伊豫谷 2001:200)。

外国人研修・技能実習制度について佐野は次のようにまとめている。@わが国が団体などを介して海外諸国から研修生を受け入れ、職場でのOJTなどの後に母国に帰すことで、受け入れ企業が保有する技術・技能を海外に移転させるシステムである。研修生及び実習生を扱うと言う意味で「労働力需給システム」ではないが、A受け入れた外国人の帰国担保を第一とした、受け入れ側による管理的な「ローテーションシステム(需給調整システム)」として機能している。しかしながら、1985年以降の円高と人手不足問題の顕在化を背景として、Bその主流が政府ベースの受け入れから企業主体の「団体監理型」受け入れに移行していくなか、「労働力需給システム」としての性格が色濃くなってきており、C21世紀目前には「管理費問題」の顕在化や、研修生の外国人登録者に占める失踪者(不法残留者)の比率が10%を超えるなど、その矛盾や機能低下が際だつようになった。とはいえ、D需給調整プロセス及び調整コストの負担先や負担額場度、その構造と実態はほとんど解明されずに現在に至っている(佐野 2002:127−128)。さらに、佐野は外国人研修・技能実習制度の問題について次のように述べている。制度の需給調整システムとしての性格を認めたうえで、その構造と実態を明らかにしなればならない。その作業においては、需給システムの運営・維持にどれだけのコストがかかるのか、そしてそのコストを誰が負担すべきなのかと言う問題について、様々な段階でチェック・検討しながら行う必要がある。この作業は完全なる『労働力需給システム』として再編することが目的としない。あくまでも第一に必要なのは現行同制度の適正な運用であって、そのためにも運用(需給調整)にかかりうるコストは、受け入れ側が、同制度の目的である「国際的貢献」を前提として経済合理性によらず確実に負担するよう、システムを整備していく必要がある(佐野 2002:127−128)。

外国人研修生については浅野「従来、外国人研修生・留学生・就学生については、多くの研究が蓄積されてきた。そこでは、@専門的技術・知識の学習者、A実質的な不法出稼ぎ労働者、B人権を侵害される被害者、C日本社会に多文化共生を迫る異文化の担い手など、様々な研修生・留学生・就学生の像が浮き彫りにされてきた。しかし従来、こうした外国人や受入側日本人が実際にいかなる文化変容を遂現げているかは、必ずしも明らかに受け入れてこなかった。」と述べた。浅野は1989〜94年、北海道・首都圏・関西圏、及び、中国(北京・瀋陽・大連)でインテンシヴな面接調査、及び、職場・地域・学校・住宅での観察に基づく生活し分析・モノグラフ研究を行った(浅野 1998:93−94)。しかし、調査対象の研修生は、企業研修生は個人経営者・国有企業管理職・技術者でいる。農業研修生は自営農民・農業技術者など中国ではかなり高いレベルの職をしている人間である。つまり、現在の多くの外国人研修生(実際は出稼ぎ労働者)と異なっている。さらに、現在実施されている外国人研修・技能実習制度は当時の外国人研修・技能実習制度とかなり変わっている。

その一方、受け入れ企業には、日本政府が外国人研修・技能実習制度を利用する日本企業に対していろいろな規制が設けられたため、安い労働力を利用すると同時に、かなりの責任を負うことになった。受け入れ先の日本企業は研修生に対して住居の保証や日本語教育や技術の育成など、いろいろなサポートをしなければならない局面に向かっている。

以上のことを含めて、本論は、私が外国人留学生の立場から日本先行研究が着手していない方面、すなわち外国人研修生の意識にまで踏み込んだ調査である。まず、外国人研修生受け入れ政策の歴史的背景・現状・問題点や送り国の現状などを明らする。その上で、外国人研修・技能実習制度という制度の矛盾は、個々の研修生にどのように経験されるのかを明らかにする。受け入れ先の日本企業は、研修生に対して住居の保証や日本語教育や技術の育成など、いろいろなサポートをしていった。つまり、研修生は在日外国人の中で恵まれている立場になっているが、研修生たちには、決して自分たちが「対外援助の媒介者」と思っていないし、あくまで自分自身が「外国人労働者」であり、概して自分の立場を恵まれていないと思っている。このようなズレが研修生の生活の中にどのようにあらわれるか、在日中国人研修生の参与観察や面接調査の実態調査を通じて、彼らの意識を解明したいと考えている。その上で

 

1、研修生という踏み込んだ先行研究がない領域で外国人労働者研究としての新たな発見

2、外国人研修・技能実習制度が、国家と企業にとってのメリットだけではなく、研修生自身にとってのある種のメリートによっても支えられていること

3、外国人研修・技能実習制度の本来の目的である、技能習得に関する実状を具体的に浮かび上がらせたうえで、研修生の立場に立って、外国人研修・技能実習制度のあり方を考えること

 

以上の3点を研修生たちの意識に接近する研究を行う上で明らかにする。

 


第二章 中国人研修生に関する諸問題

 中国人研修生の日本への流入を支えている最大の理由は、日本と中国側の所得格差と言えるだろう。それ以外には、中国の現状が研修生の日本へ流入する意識を向上させたであろう。彼らは中国で仕事を見つけるのが難しく、かつ日本に来れば自国の何十倍もの所得が得られるとあれば、さらに管理体制がけっして厳しいものではないなら来日することが当然であろう。

本章は研修生を発生の中国国内の原因と研修生になる方法について紹介しながら、以上のことを説明する。

 

第1節 中国の現状

 この節は中国の研修生を発生の原因である、中国の失業の問題と出稼ぎ現象について述べる。

 

1.中国の失業問題

1949年の建国から1980年の初めまで、「失業」とは資本主義社会に特有のもので社会主義には縁がないものと中国では言われてきた。文化大革命後の「知識青年」(学生)が都市へ戻ることにより、中国の就業と失業のバランスが崩れたが、大量の失業者は現れなかった。

そして、1978年中国共産党第十一期第三回中央委員会全体会議の改革・対外開放路線に行き着く。

同年、都市の企業は「崗位責任制」(職場ないし持ち場責任制という意味)が始まった。(丹藤 2000:34)

農村では「包産到戸」(土地権を農民に渡す、決めている農産品の量を国家に上納する)が実行された。

1986年「労働合同制」が実施され、終身雇用制が廃置された。(王恵玲 2001:321)同時に、外国企業が中国へ進出が始めた。

1992年「全人民所有制の工業企業経営メカニズム転換条例」が制定された。「全人民所有制」とはそれまでの「国営企業」を指しているが、それが「国有企業」と改められた。これ時点から業績不振で累積赤字に悩む企業に対した「解散・破産・操業停止・合併・転業」の方針が出され、操業停止や人員整理に追い込まれるところが多くなった。下崗人員(職場から離れる、つまりリストラされること)は国有企業の多い大都市に集中し、特に、中国の東北地方に目立つ。(丹藤 2000:34)

2002年1月時点での中国の失業率は、中国政府によると、3.6%(労働部 2002)であるが、中国社会科学院によると2001年度中国の実際失業率は7%である(中国科学院 2002)。以上の数字の違いは中国の失業の定議によるものである。中国の失業率は都市に登録された失業者の失業率である。中国の失業者の定義は“労働の能力があって無職で就職の願望があり、所在地の労働部門で登録した、男性は16歳〜50歳、女性は16歳〜45歳の都市に在住の非農業戸籍の人”である。この定義下の中国政府の失業率はかなり低いだろう。これと比べると中国社会科学院の調査の失業率は現実に近いと考えられる。

以上のことを踏まえて、中国都市の失業者が発生する原因は二つと考えられる。その一は、人口の自然増加である。中国社会科学院の予測によると2001年〜2005年までの5年間、中国の過剰労働力は1200万人ほどになる(中国科学院 2002)。その二は、国有企業の改革と伴に発生した下崗人員である。中国の都市の国有企業の下崗人員が1993年は300万人、1994年は360万人、1995年は564万人、1996年は890万人、1997年は1400万人になっている。生産を停止している、半停止している企業の在職者は含めていない。この部分の在職者は1200万人以上に達していった。(王恵玲 2001:333)

しかし、これが中国の失業の全部ではなく、農村部の失業者の統計がない。農村の「包産到戸」の実行は大量な過剰労働力を生むこととなる。現在、農村の出稼ぎ者は1.5億人〜2億人と言われている。さらに、4億人の過剰労働力が農村から出てくる可能性が極めて高いのである。

 

 2.中国の出稼ぎ現象

中国の場合には「出稼ぎ」ブームが1989年の春に起きて来た。初めは“盲流”と呼んだが、現在では民工と呼ぶのは普通だった。(葛象賢 1993)

民工とは、農村から都市へ仕事を求めてやって来た人々のことである。現在、中国全体で、故郷を離れ都市部で生活している民工が1.5億人〜2億人(蔡ム 2000)存在しているといわれているが、はっきりとは分かっていない。

主に民工は、建築現場、工場、飲食店などで働いている。また、自ら自営業を営んで生計を立てている。これらの仕事は、「危険、汚い、きつい」といった3K労働が大半を占めている。これらの仕事は、都市の住民がやりたくない仕事でもある。しかし、民工が都市で生きていくことは決して楽なことではない。仕事が辛く、生活環境も劣悪である。その上、都市と農村とを分断する戸籍制度の下、民工(その家族を含め)は、教育、医療などのサービスを受けることはできない。計画経済時代の中国では都市住民に対し戸籍簿に基づいた食料配給が行われていたため、都市と農村の戸籍が厳重に区分され、移動もままならなかった。戸籍管理を担当する公安部幹部によると、これまでの戸籍制度の法的根拠は50年代に制定された条例である。計画経済時代の産物で、市場経済化が進んだ現在では実態とかけ離れた条文が少なくない。

中国と日本の出稼ぎ現象を比べると、以下の特徴を持っている。

 

1.中国の民工は日本のような特定の地域から出て来るではなく、中国全国から出て来る。

2.行く場所にも日本のような大都市を集中するに対して、中国の民工は全国各地へ行くが、勿論沿海の経済発展地域は最も集中している。

3.日本のような農閑期の出稼ぎという冬型パターンと農閑期とは関係なく出稼ぎに向かう夏型パターンに対して、中国の場合には大体旧暦の正月終わるから始まり、12月や来年の1月まで続くのは普通である。

4.日本のような土地問題や長男制度がない場合には出稼ぎ者の定住傾向が強いに対して、戸籍の問題がある中国には定住傾向が薄い。

5.日本のような出稼ぎの主力が農民に対して、中国の場合には農民以外の人も出稼ぎする。

 

 以上のような中国の出稼ぎには、農民が都市へ行く、都市の労働者に代わって仕事をするという特徴が見られる。職場を失った都市の労働者は新しい職場として、海外へ出稼ぎ(研修生になる)のも選択肢の一つには間違いないだろう。同時に、農村の出稼ぎ者は技術を習得してから、より高い生活レベルを獲得する手段として海外へ出稼ぎにも可能と考えられる。

1980年代以降、増加を続けてきた在日の中国研修生には、かつて日本の高度成長を支えた農村からの出稼ぎ労働者たちが次第に都市へ生活の拠点を移していったように、研修生も中国から日本へ生活の拠点を移している。これは生活志向の向上であると考えられる。しかし、研修生になるためにはかなり高い壁が存在している。

 

第2節 来日研修前の流れと研修生になる条件

 中国の厳しい現状とより上への生活志向が海外へ出稼ぎの条件になった。しかし、海外へ出稼ぎには簡単にできるものではない。この節には、中国国内から海外へ出稼ぎの流れとその費用や研修生になる基本条件について述べる。

 

1.中国国内から外国へ出稼ぎ(日本は研修)の流れと費用

2-1は、中国国内から海外へ出稼ぎ(日本は研修)の流れを図式化したものである。

図2−1:中国国内から外国へ出稼ぎ(日本は研修生)の流れ

 

私の調査によると中国国内から外国へ出稼ぎ(日本は研修)の流れは次の通りである。

 

@出稼ぎ情報の収集――外国へ出稼ぎの情報はテレビ、ラジオ、新聞、インターネットなどのメディアから得ることができる。

 A派遣会社の選択方法――A、当地政府の対外貿易経済合作庁(局)を調べる。B、中国対外承包工程商会の対応機構を調べる。C、中国の対外経済合作部经济のホームページhttp://moftec.gov.cnを調べる。D、外国への出稼ぎを経営している派遣会社として委託された会社や部門へしらべる。

  また、出稼ぎ者(研修生)が出稼ぎ(研修)を申し込む前に知るべき情報は以下の3つである:A、出稼ぎに行く国家や地区、雇主の名前。B、仕事の内容、期間、毎日の仕事の時間。C、報酬待遇。

 

派遣会社を決めた後、現職の保留を申請する人がいる。また、パスポートやビザの申請を下りた時点で申請する人がいる。さらに、出国前に申請する人もいる。その中には、パスポートやビザの申請を下りた時点で申請する人が最も多いである。

 

B健康診断――派遣会社を決めた後、健康診断をしなければならない。

C出国前の訓練――派遣会社で48時間以上の訓練を受けなければならない。

Dパスポートやビザの申請――訓練を受けた出稼ぎ者(研修生)は出稼ぎ(研修)の受け入れ会社の最終審査を受けた後、中国の公安部門へパスポートを申請する。パスポートの申請が下りると出稼ぎ先の国の駐中国大使館や領事館へビザを申請する。

E予防接種――ビザの申請が下りると出国の予防接種を注射する。予防接種済書を受け取る。

F出国――ビザをもって、戸籍を取り下げる。派遣会社を通じて出国カードを申請する。出国カードが下りると飛行機また船の切符を購入する。

 

以上の流れがすべて完成するのに最低で6ヶ月。2年以上かかる人も少なくないと言われている。

さらに、流れの中で出稼ぎ者(研修生)が出国前において自己負担必要な費用は以下のものである。A、健康診査費。B、訓練費。C、パスポートやビザの申請費。D、予防接種の費用。E、公証証書の費用。これらの費用は1万元〜2万元ぐらいである。今回、私が調査していた在日中国人研修生は中国における平均月収が500元〜800元である。ボーナスを含めてもせいぜい月収の総額は1000元ほどと言われる。つまり、1年〜2年分の収入が掛かるのである。日本へ研修するには、さらに以下の基本条件を満たしなければならない。

 

2.日本への研修生になる基本条件

 中国対外経済合作部(2003)によれば、中国人が日本への研修生になるのには以下の条件を満たさなければならない。

 

 1.中国国内で勉強した技術と日本で研修したい技術が同じであること。またその仕事に2年以上従事していること。

 2.日本への研修終了後、元の会社に必ず戻ること。

 3.研修に対する使命感と積極性が強いこと。

 4.中国の国家や地方の行政機関を推薦すること。

 5.高校や同学歴以上の学校を卒業すること。(農業への研修生は中学校以上)

 6.年齢は18歳以上、38歳以下であること。(後者の年齢は研修の業界によって異なる)

 7.日本で研修した経験がないこと。

 8.体は健康であること、歯の治療が必要ないこと。

 9.日本語が話せること。(研修が困らない程度)

 

 以上九つの条件を満たす者を、中国の派遣機関は日本の受け入れ機関が要求した職種や条件に沿って選抜することになっている。ただし、最後の合格者の確定は日本側から行なわれる。

 しかし、日本側が示す、外国人研修生として受け入れることのできる対象者の条件は以下の3点にすぎない(国際研修協力機構 2002)。

 

 1.18歳以上の者

2.研修修了後母国に帰り、日本で修得した技術・技能を生かせる業務に付く予定がある者

3.母国での修得が困難な技術・技能を修得するため、日本で研修を受ける必要がある    

 

以上の条件をすべて満たすものなら、研修生になることができる。中国側の研修生として送り出す条件と日本側の研修生の受け入れ条件を比べると中国側のほうがより厳しいものであることが明白である。

 来日研修をするのはかなりの時間と財力を必要である。来日研修をする人数はかなり限られているのは当然であろう。しかし、現実には、中日両方の検査はけっして厳しいものではない。あくまでも日本の受け入れ会社の要求に沿って、中国のほうが派遣するかたちになる。中国人研修生に関する国際需給調整システムと中国の管理検査機構については以下の節に述べる。

 

第3節 中国人研修生の国際需給調整システムと中国の管理検査機構

 研修生が来日するのに対し、以下のような国際需給調整システムが存在している。この節は中国人研修生の国際需給調整システムと中国側の管理検査機構について述べる。

 

1.中国人研修生の国際需給調整システム

 2-2は、「団体監理型」での中国人研修生の需給調整システムにおける調整プロセスを図式化したものである。この図は佐野氏の論文――「外国人研修・技能実習制度の構造と機能」p.112の図3-2を参考としながら作成したものである。

 

図2−2:中国人研修生の国際需給調整システム(団体監理型)

    日   本                    中    国

受け入れ団体(派遣会社)   

 
               

           

          F再幹旋

 

団体加盟企業

(ユーザー企業)

 
@参加   G再々幹旋             

中国の派遣会社

 

 
A情報提供

 

 


    E幹旋   B委託募集

 

 

 


    D応募   C募集

     

研修希望者

(出稼ぎ希望者)

 

 

 図の通り、「団体監理型」での中国人研修生の需給調整は、計八つのプロセスを経て達成される。まず、図2-2@の研修生受けいれ希望企業の「受け入れ団体」への参加である。「受け入れ団体」はこの情報を中国側に提供する(同A)。中国の派遣会社はこの情報を傘下もしくは提供先の「郷鎮(日本の町、或は村と相当)の人材派遣会社や郷鎮の政府の対外貿易経済員会」に再提供して「研修希望者」の募集を委託する(同B)。「郷鎮の人材派遣会社や郷鎮の政府の対外貿易経済員会」は現地での広告による公募等の求人活動を行う(同C)。日本への「研修希望者」はこれらの募集に応募する(同D)。受け入れの決定については、中国の「派遣会社」あるいは「郷鎮の人材派遣会社や郷鎮の政府の対外貿易経済員会」(同E)が行うケースと、日本の「団体加盟企業」或は「日本の受け入れ団体」の代表者が中国の「派遣会社」まで出向き、面接試験を行うケースがある。日本の代表者が直接面接に出向くケースのほうが多い。こうして受け入れの内定を受けた「研修希望者」の情報は「中国派遣会社」に一括された後、受け入れ国側の「受け入れ団体」に再幹旋され(同F)、日本政府の入国管理局の審査を合同で受けて、日本に入国する。この一連のプロセスを経て、中国人「研修希望者」は外国人研修生として「受け入れ団体」に参加する企業に幹旋されて行くのである。(同G)

 

2.日本へ研修する研修生の中国の管理検査機構 

2-3は、日本へ研修する研修生の中日管理検査機構の連絡及び作用を図式化したものである。

 

 

 

 

 

 

 

図2−3:研修制度の中日管理検査機構の連絡及び作用図                                

      中  国                    日    本

中国の派遣会社

 

各市の対外貿易経済委員会

 

各省の対外貿易経済委員会

 

中日研修生協力機構(現中国対外承包商会に移管

 

対外貿易経済合作部

 

協議・意見交換

 

 

 

 

 

協議・意見交換

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

派遣

      契約

JICAAOTSJAVADAILOJITCO

 

 

法務省・外務省・経済産業省・厚生労働省・国道交通省

 

商工会議所・商工会、中小企業組合・非営利組織(社団法人と財団法人)・農業協同組合

 

上の組織の会員会社(通常は研修を実際に行う会社)

 

(注)JICA(国際協力事業団)、AOTS(海外技術者研修協会)、JAVADA(中央職業能力開発協会)、ILO(日本ILO協会)及びJITCO(国際研修協力機構)

 

以上の図の通り、中国の場合には、日本へ研修する研修生を管理検査する国家機関は対外貿易経済合作部である。具体的な事務は中日研修生協力機構(現具体的事務は中国対外承包商会に移管された)を通して各省・市の対外貿易経済委員会が行っている。

中国の中日研修生協力は1979年に発足して以来、既に20年が経過した。1992年、中国対外貿易経済合作部の指導の下、中日研修生協調機構(後に「中日研修生協力機構」と改称) が設立されたのをきっかけに、関係各方面の努力によって、当協力事業は著しい発展を遂げた。日本法務省の統計では、2001年に日本に派遣された中国人研修生が合計32,894名、日本の年間外国人研修生受入総人数の55.7%を占めていた。1992年から2001年にかけて、中国人研修生の累計対日派遣人数は202,257名である。2000年10月末時点で、中日研修生協力機構は会員103社(補足1)を抱えている。現在、同機構の業務はすでに中国対外承包商会(「対外請負」商会の意)に移管されている。(中国の対外経済合作部 2003

日本の場合には、法務省・外務省・経済産業省・厚生労働省・国土交通省が研修・技能実習政策を実施・管理している。実際の事務はJICA(国際協力事業団)・AOTS(海外技術者研修協会)・JAVADA(中央職業能力開発協会)・ILO(日本ILO協会)・JITCO(国際研修協力機構)を通して商工会議所・商工会・中小企業組合・非営利組織(社団法人と財団法人)・農業協同組合が実施している。

 中国の各省・各市の対外貿易経済委員会が中国の派遣会社を通じて日本へ研修する中国人研修生の管理をしている。中国の派遣会社は日本の商工会議所・商工会・中小企業組合・非営利組織(社団法人と財団法人)・農業協同組合と派遣契約を結び、中国人を派遣する。しかし、対外貿易経済合作部、中国対外承包商会ともに、各省・市の対外貿易経済委員会にしても一番重要な仕事は対外貿易であり、日本へ研修する研修生の中国の管理検査は通常の業務に過ぎない。私のインタビューを受けた中国のある地方の対外貿易経済委員会役人はこのような言葉を述べた:“地方役人の最も重要な仕事は経済の発展である。経済発展が地方の安定に欠かせない。海外への出稼ぎは地方の安定にも、出稼ぎ者家族の生活の安定にもいい事である。また、出稼ぎ者の収入は地方の経済発展も繋がっている。さらに、中日の友好関係にも関わっている。このような事業は厳しくチェックをしないと思われる。”このような事情もあって、中国の検査はけっして厳しいものではないである。

 

第4節 まとめ

中国人研修生の日本への流入を支えている最大の理由は、まず、日本と中国側の所得格差と言えるだろう。70年代以降、その経済発展段階の格差を背景として大きな所得格差が存在していたが、特に1985年9月のプラザ合意によって円為替レートの大幅切り上げが行われたため、その格差はさらに拡大した。極端な円高が重要な役割を果たした。日本と中国との経済的水準の格差が円高によって拡大された一方、中国の貧困と失業に悩む人々にとって、日本での雇用機会と高賃金が魅力的に見え始めた。そして、その円高は数年にわたって続いているため、日本への出稼ぎは価値があると思うようになった人が増えてきた。この決定的な経済格差は中国の人々が日本に出稼ぎに行こうとする強い動機を与えるには十分であったと言えよう。

また、日本が太平洋域の唯一の経済大国になり、日本企業の中国進出が急ピッチで進み、日本の製品も大量に中国市場へ輸出されることによって、日本のイメージは経済が豊かな先進大国として深く浸透しつつあるし、航空通信網の発達と情報化社会の影響を受けて、国際移動が容易になってきた。国境の壁が薄くなってきたと言ってもよい。日本列島を取り巻く国際経済状況がすっかり変化したことによって、大国日本は驚くべき吸引力を持つようになった。

 さらに、日本人の中国旅行や滞在の増加あるいは貿易の拡大、資本投下等の経路を通じて、日本についての知識、情報が中国に急速に滲み込むとともに、その文化的蓄債によって流出の動機が次第に促進された。

しかし、たとえ日本との所得格差が大きくても、中国である程度の雇用が保障されていれば、日本へ出稼ぎにいく必要性はあまり感じないであろう。現実的には、中国で仕事を見つけるのが難しく、かつ日本に来れば自国の何十倍もの所得が得られるとあれば、スムーズな中国人研修生の需給調整システムと、けっして厳しくない管理体制を考えれば中国の労働者が日本に向かうのはごく自然な動きであると言える。

 

 


第三章 日本の研修・技能実習制度

日本では1980年代末、少子高齢化の進展、ボーダーレス社会の出現、高度情報化の進展などにより、外国人労働者問題にどう対応するかという問題が政治、経済、社会などの場で大小ともに議論された。

その結果、日本国政府は1990年に従来の研修制度を改正し、日本の技術移転により開発途上国における人材育成に貢献することを目指し、折り幅広い分野における研修生受け入れを可能とする途を開いた。本章では外国人研修・技能実習制度について、その実態を整理・検討する。

 

第1節       日本の研修技能実習制度の位置づけと背景

 

1.  外国人受け入れ政策における研修・技能実習制度の位置づけ 

外国人研修・技能実習制度とは、中国・東南アジア等の産業発展に必要な人材育成をはかるために、日本の民間団体や企業に外国人研修生・技能実習生を受け入れ、技術や技能・知識などを学ぶ場を提供する制度であり、1993年、国際協力の観点から技術の移転を促進し発展途上国の技術発展をはかることを目的として設立された。下の図のように、研修生・技能実習生は、1980年代後半以降急激に増加しており、2001年時点で、日本の在留資格上の研修生は59,064人、技能実習生は22,268人に及ぶ(国際研修協力機構 2002)。

 

【図31】研修生と技能実習生の推移 (単位:人)


 出典:国際研修協力機構(2002

この制度が現在の日本の外国人労働者受け入れ政策の根幹となることが予想される。そこで次に、この制度の創設された経済的・社会的背景を探ってみたい。

 

2.  制度創設に至る背景

外国人研修制度のルーツは、埼玉県川口市の「協同組合川口鋳物海研会」である。川口地域の鋳物産業は、中小企業が多く、また「3Kを揃える職場」と言われる鋳物産業は早くから人手不足問題に悩んでいる。こうしたなか、同地域の鋳物事業主は自ら協議会を設立し、1979年に中国へ外国人研修生受け入れのための視察団を派遣している。海研会は1979年の現地調査以降、送り出し機関と契約交渉、研修生の選抜、出入国管理手続き、受け入れ企業側の体制整備などの難問を自ら解決し、1983年6月、中国から21名の中国人研修生の第一次受け入れを実現させ、その活動を軌道に乗せている(佐野,2002:99-100)。

1988年労働省の外国人労働者問題研究会によって新しい外国人労働者政策の基本方針が発表されたのである。それには、「専門的・技術的分野の労働者は積極的に受け入れるが、いわゆる単純労働者の受け入れについては、我が国の経済社会と国民生活に与える影響などを考慮して慎重に検討する」と述べられている。つまり、高度な知識を持った技術者や専門家の受け入れは推進するが、いわゆる単純労働者の受け入れに関しては認めないという姿勢を明確にしたのである。ちなみに1989年閣議決定された第9次雇用対策基本計画においても、この方針は確認されており、現在に至るまで外国人労働者受け入れ政策に対する政府の姿勢を表していた。

ここで一番深刻な状況に陥ったのが、前述の通り人手不足に悩む建設業や製造業、卸売業などの中小企業であった。バブル崩壊後、それ以前に比べれば人手不足はいくぶんか解消されたものの、少子化で人手が集まらなくなっている上に単純労働業種に人気がないこともあって、中小企業における人手不足問題は切実であった。

また当時不法就労者の数も急増し、従来の法制度では対応できないほど日本国内の状況は変わってきたことから、外国人労働者受け入れ政策に対する新たな枠組みが必要とされるようになった。

1989年に入管法が改正され、1990年6月1日から施行された「出入国管理および難民認定法の一部を改正する法律」(平成元年法律第七九号)により、在留資格関係の規定が抜本的に改められた(坂中,2001:48)。

入管法改正の主な目的は@在留資格の整備、A審査基準の明確化、B入国審査手続きの簡易化・迅速化、C不法滞在の外国人労働者への対応であった。(佐野,2002:100)この改正法の実施と普及が決定的となっている。

このような方針は中小企業にとっては大変厳しいものであったから、それに対する対応策も同時に行われた。つまり改正入管法では、日系人受け入れ拡大のほかに「研修」という在留資格が設けられ、研修制度創設の足がかりができたのである。また入管法改正直後には、法務大臣告示により、研修受け入れ機関の条件や受け入れ人数枠について大幅な条件緩和がなされたため、実質的に中小企業の研修生受け入れ枠が拡大されることになった。これによって、それまで研修生を受け入れることができなかった従業員20人未満の小企業でも3人の研修生を受け入れることが可能になり、中小企業における研修生の位置づけがいっそう重要になった。

国際研修協力機構の2001年のパンフレットによると、1991年9月19日、研修・技能実習制度創設をにらんで、4省(旧労働省、旧通産省、法務省、外務省)の共同管轄のもとで財団法人国際研修協力機構(JITCO)が設立され(その後旧建設省が加わり5省共同管轄となった)、現在は法務省、外務省、経済産業省、厚生労働省と国土交通省が共同管理している財団法人である。1993年4月5日には法務省告示第141号「技能実習制度に係る出入国管理上の扱いに関する指針を定める件」および労働省(官庁報告)「技能実習制度推進事業運営基本方針の公表について」が掲載された。これによって技能実習制度が創設されたのである。(国際研修協力機構,2001)

 

第2節             制度の仕組みと現状

 

1.仕組み

研修制度は、入管法では「本邦の公私の機関より受け入れられて行う技術、技能又は知識の習得をする活動」(山田・黒木,2000:20)と位置づけられている。つまり、入国法上、「研修」の在留資格については就労が認められていない。

実際の研修は非実務研修と実務研修に分けられる。非実務研修は、基礎的日本語、一般的知識、基礎的技術・技能・知識等を学ぶことになる。(手塚,1999:70)非実務研修は技能実習制度との差異化を図るという意味でこの研修制度の根幹にあたる部分である。一方実務研修は、非実務研修で学んだことを実践のなかで学ぶ機会を提供する場であり、研修生には実際に工場などの現場で実習を積む機会が与えられる。この実務研修を、研修生は「労働者」としてではなくあくまで「研修生」として無賃金で行っている点に研修制度における問題がある。また非実務研修には、原則として研修時間全体の少なくとも3分の1以上が割り当てられなければならないが、1992年、一定の条件の下では「4分の1以上」「5分の1以上」でもよいことになり、非実務研修の役割が疎んじられてきている。

研修・技能実習制度の流れは図3−2に表すになる。

 

【図3−2】研修・技能実習制度の流れ

出典:国際研修協力機構(2002

技能実習制度を、法務省が告示した「技能実習制度に係る出入国管理上の取り扱いに関する指針」をもとに見てみる。まず技能実習制度の目的は、「研修」によって一定水準以上の技術・技能等を修得した外国人に対し、その後も継続して「労働者」として働くことでより実践的な技術・技能を修得させようとするものである。それにより、そこで得た技術・知識の開発途上国等への移転を図り、その経済発展を担う人づくりに協力することを目指している。対象者は、入管法の「研修」の在留資格で研修に従事している者であり、研修後に公的な評価システムのもとで合格すると、在留資格を「特定活動」に変更した上で技能実習生になれる。

ちなみにこの公的な評価システムとは、具体的には国家試験である技能検定基礎1級および基礎2級の評価制度(49種)と、JITCOが認定した公的な評価システムを指しているが、実際にはこの評価はJITCO自身が行っている(補足2)。

滞在期間は、原則として、研修と技能実習併せて2年以内とされているが、技能検定3級相当の評価制度が整備されている45種については最大3年以内まで延長できる。また技能実習の期間は研修期間の1.5倍以内とされているが、研修期間が9ヶ月を越える場合はそれ以上も認められている。

研修と技能実習の相違は以下の表には国際研修協力機構の表を参考しながら作成したものである。

 

【表3−1】研修と技能実習の相違

 

研   修

技 能 実 習

 

 

 

 

条   件

1.18歳以上の者

2.研修修了後母国に帰り、日本で修得した技術・技能を生かせる業務に付く予定があるもの

3.母国での修得が困難な技術・技能を修得するため、日本で研修を受ける必要がある者

1.技能実習を実施できる職種・作業について研修を修了した者

2.技能実習修了後母国に帰り、日本で修得した技術・技能を生かせる業務に付く予定があるもの

3.在留状況等から見て、技能実習制度の目的に沿った成果が期待できると認められる者

4.雇用契約に基づき技能実習を行い、さらに実践的な技術・技能を修得しようとする者

 

 

 

 

 

 

受け入れることのできる機関

1. 企業単独型の受け入れ

2. 団体権利型の受け入れ

研修生が受け入れできる機関は以下の要件を満たすもの

1.技能実習内容が、研修内容と同一の種類の技術・技能などであること

2.技能実習は研修活動が行われている受け入れ企業等と同一のものが行うこと

3.技能実習希望者と受け入れ企業等との間に、日本人従業員と同等以上の報酬を受けることを内容とする雇用契約が締結されること

4.受け入れ企業等が技能実習生用宿泊施設を確保し、技能実習生の帰国旅費の確保など帰国担保措置を講ずること

5.技能実習実施機関又はその経営者若しくは管理者が過去3年間に外国人の研修・技能実習そのほか就労に係る不正行為を行ったことがないこと

 

 

 

滞 在 期 間

原則として1年以内

1.研修と技能実習の期間の合計は、最長3年となっていること

2.技能実習期間は、研修期間のおおむね1.5倍以内で認められる。ただし、研修機関が9ヶ月を超える場合は、この限りではないこと

3.研修期間が比較的短いもの(6ヶ月未満)は、技能実習は認められないこと

対象となる業務・職種の範囲

入管法令の要件を満たす同一作業の単純反復でない業務とする

技能検定などの対象となる62職種112作業とする

習得技能水準の目標

技能検定基礎2級(1年研修の場合)とする

技能検定基礎3級(2年実習の場合)とする

技能習得のために担保措置

1. 研修計画を作成する

2. 研修計画を履行する

1.  技能実習計画を作成する

2.  技能実習計画を履行する

該当する在留資格

「研修」である

「特定活動」である

労働者性の有無

労働者性はなく、就労は認められない

労働者として扱われる

時間外・休日従事の適否

1.  時間外は行えない

2.  休日研修は行えない

1.時間外は行える

2.休日労働は行える

外国人に対する保護措置

入国法令に基づく保護を行う

労働法令に基づく保護を行う

処遇条件の明確化

研修時間、研修手当などの条件を定めた処遇通知書を交付する

労働条件に関する雇用契約書又は労働条件通知書を交付する

受け入れ機関の生活保障措置

生活の実費として研修手当が支払われる

労働の対価として賃金が支払われる

障害・疾病への保険措置

民間保険への加入が義務付けられている

国が社会保険と労働保険が強制適用される

出典:国際研修協力機構 2003 

以上が、研修・実習制度の主な仕組みであるが、概して言えることは、研修期間における実務研修の割合の増大化、制度全体における技能実習期間の割合の増大化という傾向である。これは、この研修・技能実習制度そのものの本当の目的が「人材育成」という建前とはかけ離れたところにあることを物語っているのではないだろうか。

 

2.現状

では次に、この制度の現状を数字でみることで、建前と本音の違いを実証したいと思う。まず研修生の受け入れ状況を見てみると、2001年に入国した外国人研修生は59,064人にのぼり、そのうち政府受け入れの研修生は12,626人で、全体の21.4%を占めている。受け入れ機関は国際協力事業団(JICA)、海外技術者研修協会(AOTS)、中央職業能力開発協会(JAVADA)及び日本ILO協会である。国際研修協力機構(JITCO)受け入れの研修生は37,423人である。入管直接申請の受け入れの研修生は9,015人である。研修生を国籍別に見てみると、中国は32,894人で全体の55.7%を占め、次いでインドネシアの5,817人(9.8%)、フィリピンの3,768人(6.4%)、ベトナムの3,238人(5.5%)タイの3,184人(5.4%)、の順になっている。

下のグラフは国籍別研修生の人数の推移を表している。

 

【図3−3】国籍別研修生の人数の推移(単位:人)

出典:国際研修協力機構(2002

グラフを見ると、1998、1999年に研修生の人数が減少しているが、同時期の日系人労働者数も減っていることを考えると、日本国内の経済不況が影響したものと考えられる。2000年からまた急増していることがわかる。その原因は中国からの研修生が急増していることが明白である。現在中国は日本への研修生送り出しに力を入れており、それがこの数字に表れているのであろう。
 研修生の研修職種をみると、繊維・衣服関係職種、食品、機械製造業、建設作業等の職種における受け入れが多い。

 

【表3−2】JITCO支援の外国人研修生の受け入れ産業・職種別状況(2001年)

職種(全体)

人数(人)

構成比(%)

合計

37,423

100

衣服・その他の繊維製品製造業

10,444

27.9

食料品製造業

5,026

13.4

輸送用機械器具製造業

3,092

8.3

電気機械器具製造業

3,016

8.1

建設関連工事作業

2,254

6.0

金属製品製造作業

2,065

5.5

農業

1,804

4.8

プラスチック製品製造業

999

2.7

繊維工業(衣服・その他の繊維製品製造業を除く)

954

2.5

精密機械器具製造業

926

2.5

一般機械器具製造業

817

2.2

その他

6,106

16.2

出典:国際研修協力機構(2002

 

これらの職種を見てみると、日本の若い人たちが来なくなって人手不足が叫ばれている分野いわゆる“3K”の職業であることがわかるだろう。

【図3−4】企業の資本金別外国人研修生の受け入れ状況(2001)

 

出典:国際研修協力機構(2002

 

一方、研修生の受け入れ側について見てみる。JITCOの会員である受け入れ企業の形態を示したものであるが、上のグラフから読みとれることは、研修生を熱心に受け入れているのは資本金も1千万円から3千万円程度の中小企業が多いということである。

【図3−5】従業員規模別外国人研修生受け入れ状況(2001)

出典:国際研修協力機構(2002

 

上のグラフから読みとれることは、研修生を熱心に受け入れているのは従業員100人以下での中小企業が多いということである。

両方のグラフからみると、資本金も1千万円から3千万円程度で、従業員100人以下の中小企業国際研修協力機構が研修生の受け入れに熱心であることが分かる。その原因には、中小企業国際研修協力機構は企業や団体を賛助会員としてその会費を資金の一部としている。研修生・技能実習生を受け入れる際にはさまざまな条件が設けられており、その条件をクリアしている企業は単独で会員になっているが、中小企業や職業訓練所など単独ではその条件をクリアできない場合、商工会や企業組合、農協などの事業者団体を受け入れ窓口とすることができ、それが団体会員にあたる。よって、賛助会員の推移をみることでも研修・技能実習事業に積極的な事業体がわかる。

 

3節 研修・技能実習制度の問題点

 

KSD事件

研修生制度は、日本企業での研修によって知識や技術を習得し本国でそれを役立てる目的から設けられた。しかし、実体はどうかと言えば、本来の研修とは別に、むしろ日本人労働者が集まらず通常の賃金では労働者が確保できない業界において外国人労働者を合法的に就労させるための手段としてこの制度が利用されている。偽装就労の隠れ蓑としての研修制度である。(梶田孝道 200230)。それが衝撃的な事件として表面化したのが2000年に起こったKSD事件である。KSDとは「ケーエスデー中小企業経営者福祉事業団」の略称であり、1964年、労災などの災害補償や福利厚生事業など中小企業の事業者の共済を目的に古関忠男前理事長のもとに設立された公益法人である。このKSDが外国人雇用問題に深く関与し始めたのは、1990年の入管法改正で不法就労の外国人雇用に対する雇用主罰則規定が設けられたため、廃業する中小企業のKSD会員が続出したことがきっかけだった。そこで、KSDは豊明会中小企業政治連盟(豊政連)や研修生受け入れ機関である財団法人「中小企業国際人材育成事業団」(アイム・ジャパン)を設立し、その後押しで自民党議員主体の「中小企業経営問題議員連盟(豊明議連)」を立ち上げるなど、政治力を利用して外国人労働者受け入れを拡大しようとした。アイム・ジャパンは実質のところ、中小企業に安い外国人労働力を提供する目的で東南アジアから研修生を受け入れる窓口であるといってよく、研修制度問題に取り組んでいる団体「外国人研修生問題ネットワーク」はその実態を批判している。

このようなKSDと研修・技能実習制度、政治家との関わり合いが明るみになったのが2000年に発覚したKSD事件である。小山孝雄・前自民党参院議員は、外国人研修者の受け入れ期間を2年から3年に延長するための口利きを古関前KSD理事長から依頼され、1995年から96年にかけて、KSDに有利な国会質問を行い、見返りとして賄賂を受け取った容疑で逮捕され、また豊明議連幹事長だった村上正邦・前参院議員も賄賂を受け取った罪で逮捕された。

この事件により、研修・技能実習制度そのものが中小企業の意向を受けて形づくられたことが明らかとなり、「国際協力」・「人材育成」という建前のもと人手不足解消の目的で中小企業が研修制度を活用している現状が表面化したのだ。

 

2.失踪者問題

 研修生・技能実習生が失踪する原因は佐野氏が@「研修手当と一般労働市場での賃金に大きな格差があり、こうした劣悪な条件がプッシュ・プル要因となって逃亡・失踪が増加した」とする考え方が可能である。A有効求人倍率が低下したとき、すなわち労働市場において求人が少ないときに逃亡・失踪が増加している。B研修生が「受け入れ企業」側の管理が甘くなった隙に逃亡・失踪が増加した。C円の対ドル為替レートが高まれば、研修生が日本円を母国へ送金する際にその為替差益を得ることができる。以上の4つであると述べている(佐野 2002:124−126)。

研修生・技能実習生は、日本の中小企業分野の生産性が低く、日本人が雇用されにくい分野で導入が進んでいる。これらの分野の企業にとって賃金・手当が低い研修生は必要である。研修生技能実習生から見れば、元来、賃金・手当が低いところに管理費など費用支払いが上乗せされて、研修生・技能実習生の日本での生活水準は低くなることが当然だろう。さらに、技能実習生は労働者となっても転職不可能、労働移動の自由がないことを意味し、そこに失踪問題が生ずる背景がある。また、このような経済的背景以外にも、同国人や日本の犯罪グループを利用されたケースも存在している。例えば2003年には、富山県では“水橋事件”があった。名古屋の中国人研修生が集団失踪して、名古屋の中国人ブローカを通じて富山の水橋の電子部品工場へ不法就労した事件である。

研修生の不法滞在者は1998年3,099人であったが、1999年3,115人、2000年は3,055人、2001年は3,004人、2002年は3,264人になっている(国際研修協力機構編,2002:109)。また、技能実習生の失踪者は、1996年109人であったが、その後1997年201人、1998年209人、1999年357人(国際研修協力機構編,2000:112)、2002年は639人になっていった。両者合わせて前年に比べ300人ぐらい増加している。失踪後帰国した人がいるものの、多くの人は不法就労者として日本に残っているものと推測される(国際研修協力機構編,2002:117)。ローテーションシステムとして機能する外国人研修・技能実習制度にとって、研修生・技能実習生の失踪は、結果的にその帰国が担保されないことを意味するのであるから、その機能の不完全と同じである。研修生・技能実習生が研修・技能実習後は必ず帰国するよう実行している外国人研修・技能実習制度にとって極めて重大な問題である。このことを改善しない限り、外国人研修・技能実習制度の将来は厳しいと考えられる。

 

第4節 まとめ

日本では1980年代末、少子高齢化の進展、ボーダーレス社会の出現、高度情報化の進展などにより、外国人労働者問題は、埼玉県川口市の「協同組合川口鋳物海研会」が新しい解決方法を探ったあと、1990年の入管法の改正は外国人研修・技能実習制度を確立した。その結果、2001年に入国した外国人研修生は59,064人にのぼった。

以上の結果を総合すると、研修・技能実習制度を大いに活用し普及させているのは日本でバブル以降人手不足が叫ばれている業種、すなわち製造業や建設業などの中小企業である。確かに、外国人研修・技能実習制度はいろいろな問題を抱えている。しかし、こうした日本で人手不足が叫ばれている職種のなかには、先進国である日本の人たちにとってはあまり華やかに表に出てくるものではないかもしれないが、発展途上国にとってはこれから生産技術の改良を目指す上で必要不可欠な分野があり、これらの分野に積極的に研修生を招く意義はあるとも言えるだろう。

 同時に、外国人研修・技能実習制度の問題もたくさん出てきた。最も深刻な問題は研修生・技能実習生の失踪である。ローテーションシステムとして機能する外国人研修・技能実習制度にとって、研修生・技能実習生の失踪は、結果的にその帰国が担保されないことを意味するのであるから、その機能の不完全と同じである。このことは研修生・技能実習生が研修・技能実習後は必ず帰国するよう実行している外国人研修・技能実習制度にとって極めて重大な問題である。したがって、研修生の生活と意識を調査し、失踪の直接の動機はわからないまでも、研修生・技能実習生が経験する困難にも目を向ける必要があると考えられる。

 


第四章 研修生の生活と意識

本稿が素材とする実態調査は、2002〜2003年、日本の北陸地区、及び、中国で実施した。今回の調査は、中国人研修生14人、及び、彼らの研修先の組合(A組合とB組合)の理事長を対象としたインタビュー調査である。研修生たちへのインタビューは、仕事を終えて帰ってきた寮や、あるいは研修の合間に休憩スペースで行われたものである。組合理事長へのインタビューは理事長室で行われた。研修生たちへのインタビューはすべて中国語で行い、後で日本語に翻訳した。組合理事長への調査は日本語で行った。また、私は、研修生たちの日本語教師をしていたこともあり、彼らと住宅や実習先などで接する機会も多かった。本稿では、そうした機会を利用した参与観察記録も用いている。

 

1節 調査の概要

本節ではまず、調査協力者である中国人研修生の中国の居住地と中国の派遣会社について説明する。次は研修生たちのプロフィールを表にまとめたものである。

 

1.中国人研修生の地元の説明

 ここでは、調査協力者である中国人研修生の地元について説明する。

 

@中国遼寧省と大連市とK区の説明

遼寧省は中国の東北地区の南部に位置している。面積は145,900kmである。人口は4171万人である。1999年食糧産量は1648.8万トンである。中国で有名な農業省である。工業は重工業が中心である。改革開放以来、国営企業の改革によって、倒産する国営企業が増えている。近年、地理的な原因で海沿いの大連市を中心に外国企業がたくさんに進出している。中国の経済発展の最先端地区である。

研修生の地元大連市は遼寧省の海沿いに位置している。中国の経済発展の最先端地区の1つである。面積は12,574 kmである。人口は557.93万人である。工業は重工業が中心で、外資系会社がたくさん進出している。

研修生はこの市のK区に住んでいる。K区は計画中の大連市新地区の中心に位置し、面積は1054kuで、大連市では もっとも面積の大きい行政区である。人口は49万人、6つの町と10区を統轄している。現在K区は、将来の大連市の工業集中発展区、農業現代化の模範区、中国東北地方の物流集散地になるようにと計画されていて、町づくりを進めている。工業は「工業によるK区富強」という戦略に力をいれて実施している。K区には今K区経済開発区、K区工業新区、工業セット団地など八つの団地があり、外国企業が進出するため、場所や発展のスペースを提供している。農業はK区は国家から最初に認可した輸出志向型農業模範区の一つに指定されている。上質水産品、果物、野菜、新鮮ミルク、花などの経営は既にK区の特別な優越性を持つ産業になり、特にナマコ、ジャンボさくらんぼうなどの品物は国内外にも名を馳せている。

 

A中国江蘇省と研修生の地元H町の説明

江蘇省は中国東海岸沿いの中部、長江の下流両岸に位置している。面積は102,600kmである。人口は7182万人である。農業の耕地面積は441.8万ヘクタールである。工業は電子、石油化学、機械、自動車製造などが中心である。改革開放の以前から郷鎮企業(村や町が管理する企業である)が盛んである地方として中国で有名である。近年、地理的な原因で外国企業が沢山進出している。中国の経済発展の最先端地区である。

研修生の地元H町は江蘇省の中部の東に位置している。上海の衛星都市N市の町の一つである。面積は175.3kmである。人口は91.9万人である。農業の耕地面積は84.5万ヘクタールである。工業は機械、シルク、建築が中心である。特に建築業は有名である。従業員数は5万人以上である。年間建築面積は750万mである。中国以外には、イラク、ロシア等の国で建築事業をしている。

 

 

2.中国の派遣先会社の説明

ここでは、調査協力者である中国人研修生の派遣先の会社について説明する。

 

@中国遼寧省大連市の国際合作公司の説明

この会社は国際労務協力、国際工程、輸出入など国際業務を中心で従事する国際協力会社である。国内事業は不動産、遠洋漁業などにも従事している。現在、この会社の国際労務協力事業には、日本、韓国、ロシア等30ヶ国以上の国と地区に機械加工、看護婦(師)、木材加工、教師などの職業の出稼ぎ労働者を派遣している。大連市の出国人員訓練センターなど10ヶ所個以上の労務訓練基地が所有している。中国の経済貿易省の規定に沿って、出国人員を訓練し、その合格者が推薦制度と2級審査制度を実施している。

 日本への労務事業(研修生事業)は年中に行われている。研修生は20〜30歳、大連市の出身者であり、出国の記録がない者であることが要求される。職種は鋳物、建築、溶接などがある。

 日本の富山県と中国の遼寧省は姉妹県であるので、B組合はこの関係で中国の遼寧省の大連市の国際合作公司と仕事関係を結んだ。

 

A中国江蘇省S市の派遣会社の説明

この派遣会社は元々中国の国営衣類製作会社の一部門である。この部門の責任は会社の海外の関係会社に衣類を作る職人を送ることである。近年、中国の改革開放によって、国営企業も改革を始めた。1992年、「全人民所有制の工業企業経営メカニズム転換条例」が制定され、「国営企業」が「国有企業」と改められた。この会社も改革を始めた。衣類製作部門とそのほかの部門を切り分けた。この派遣会社もその時から会社の付属会社として経営を独立させた。仕事は引き続き海外の会社に人材を派遣することになっていった。

 4年前、A組合の理事長と会って、日本への研修生の派遣事業が始まった。中国の方は日本側の要求する通り、研修生の地元派遣会社を通じて人材を募集している。毎月研修生1名に全給料の5%〜8%の管理費をA組合に通じて徴収している。中国では、海外へ派遣するのは労工である。労工とはつまり、海外へ出稼ぎをする労働者である。管理会社はその収入の25%までを管理費として徴収できる。

 

3.研修生たちのプロフィール

 下の表4−1−1には、今回の調査協力者である中国人研修生の名前・年齢・来日時間・性別・学歴・出身地・家族構成・所属組合をまとめたものである。

 

4−1−1 研修生のプロフィール

名前

年齢(歳)

来日時期

性別

学歴

出身地

家族構成

所属組合

H.R.

34

1年

中学校

中国

江蘇省

妻と子供(小学生)3人家族

A

H.J.

31

1年

中学校

中国

江蘇省

親と兄の一家3人と妻と子供(幼稚園)8人家族

A

H.L.

38

1年

中学校

中国

江蘇省

親と妻と子供(中学生)5人家族

A

H.W.

31

1年

中等専門学校

中国

江蘇省

妻と子供(中学生)3人家族

A

H.C.

37

1年

小学校

中国

江蘇省

妻と子供(中学生)3人家族

A

K.Z.

36

2年半

中学校

中国

江蘇省

親と妻と子供(中学生)5人家族

A

K.G.

40

2年半

中学校

中国

江蘇省

親と妻と子供(大学生)5人家族

A

K.C.

31

2年半

高校

中国

江蘇省

妻と子供(小学生)3人家族

A

K.Y.

35

2年半

中学校

中国

江蘇省

妻と子供(中学生)3人家族

A

K.K.

36

2年半

中学校

中国

江蘇省

妻と子供(小学生)3人家族

A

D.F.

37

3ヶ月

中学校

中国

遼寧省

妻と子供(高校生)3人家族

B

D.C.

30

3ヶ月

高校

中国

遼寧省

妻と子供(小学生)3人家族

B

D.Q.

31

3ヶ月

中学校

中国

遼寧省

妻と子供(小学生)3人家族

B

D.G.

25

3ヶ月

技能工業高校

中国

遼寧省

両親と私3人家族

B

上の表4−1−1のように、今回の調査対象は14名全員男性の中国人である。平均年齢33.7歳。一人を除いて全員が結婚した。大きく分けてAとB組合に所属している。中国の江蘇省と遼寧省の出身者である。

 

 

2節 分析

 

1.来日前の経歴

 ここでは、調査協力者である中国人研修生の学歴と職歴について説明する。

 

@学歴

以上の表4−1−1ように今回が調査した研修生の最終学歴は、A組合は中学9名、中等専門学校と高校2名、小学1名である。B組合は中学2名、高校2名である。しかし、研修生の学歴に対して信頼性が低いと受け入れの組合はよく言われるA理事長からの話によれば、研修生として応募してきた最初の履歴書には「高校卒業」と書いていた人が多いである。しかし、偽者もいる。A理事長は書類上のほころび(もう十何年も経ったのに、卒業書の紙は手が切れるほど新しいものだった。)から見破った例があった。その応募者は“ごめんなさい”と訂正したという。

なぜ研修生の中には学歴を偽る者まで現れるのだろうか。第二章第2節「2.日本への研修生になる基本条件」で述べたように、中国側での、中国人が日本で研修生になる要件の中には、高校や同学歴以上の学校を卒業すること(農業への研修生は中学校以上)というものが含まれている。しかし、日本側や仲介業者は、学歴を気にしておらず、彼らにとって高校卒業を称する必要は実際にはないのである。

しかし、彼らは、大抵そのことを知らない。中国では大企業や外資系企業などに就職するためには学歴が高くなければならない現状があるため、研修生に志願する際にも学歴が高くなければいけないのではないか、と彼らは考えたのではないだろうか。このことは、いかに彼らが、研修生になることを上昇のチャンスとして意識しているか、を示すといえよう。

 

 

 

 A職歴

今回調査した研修生の来日前の最終職歴については、A組合の研修生は郷鎮企業7名、自営業が2名、国営企業が1名である。B組合の研修生は郷鎮企業3名、国営企業1名である。職種はさまざまである。例えばK.Z.とK.G.は木工、H.L.は内装工、あとは運転手、旋盤工、建築業などである。来日後は全員が職を辞めたと言っている。

第二章第2節で述べたように、研修生の職歴については、中国側では、研修生が日本での研修終了後、元の会社に必ず戻ることになっている。日本側では、研修生は研修修了後母国に帰り、日本で修得した技術・技能を生かせる業務に付く予定がある者と規定されている。

したがって、研修生はほとんど在職者のものに限られることになる。しかし、中国では自営業を除いて個人が日本へ研修に行きたいという理由で3年間の休職をすることは、ほとんど不可能である。そのため、研修生は日本へ入国直前に職を辞める。つまり、研修はあくまでも在職中の者に限られることになっているが、実態はほとんどの研修生が職を放棄していると考えられる。

 

 

2.来日動機

 全員が挙げた動機は、経済的動機である。例えば、K.Z.は「来日の動機は勿論お金のため。日本は中国よりお金が儲けやすいと聞きました」と語っている。彼に限らず、14名の研修生全員が「お金のため」だと言う。

 彼らが「お金を儲けたい」と思う背景はさまざまで、K.G.の場合は、現在20歳の子供が大学に通っていて学資が必要なことを挙げている。他の者は、中国に帰って家を建てることを夢みている。彼らにとって、家は大きな関心事で、知っている町の建物を評論したり、会話の中で相手の家を立派だと褒めたり、それに対して「いやいや、普通です」などと謙遜したりする。H.J.は、「私たちは、働いたお金はほとんど建物に使ってしまう」と私に語り、H.W.とH.R.は、中国に帰ったら家を建てるつもりだと言った。D.Q、D.F、D.C.は、中国で勤めていた企業の経営が悪化したことを挙げている。彼らの中国での居住地では、主に外資系企業に押されて郷鎮企業が(時には国営企業も)経営難に陥っている。しかし、彼らの家は市の周辺部に位置しており、外資系企業への就職は距離的に不利なところがある。したがって、日本へ行くことがなお魅力的で近道であるように彼らの目には映るのだろう。

 いずれにせよ、調査の結果、研修生たちにとっての来日動機は、お金を儲けるため、というシンプルなものだった。

 しかしその一方で、経済的動機とは異なったものを併せて挙げる人が3名いた。「異国の風景を見たい」(K.Y.)、「日本に対して興味がある」(K.C.)、「中国以外の世界を見たい」(D.G.)といった例である。これらは、外国に対する一種の好奇心と思われ、したがって(用語としては大雑把だが)文化的動機と呼ぶこともできるだろう。因みに、D.G.は20代未婚であるが、残りの二人はいずれも30代既婚であり、文化的動機は個人的な性格に起因するとしか言いようがないだろう。

 

3.来日経費

来日に要する経費については、A組合の研修生が大体7万元ぐらい(そのうち、保証金は5万元)ということであった。B組合の研修生は6万元ぐらいである(そのうち、保証金は5万元)。いずれにしても保証金は5万元である。

研修生が出国前に自己負担する費目は健康診査、訓練費、パスポートやビザの申請費、予防接種の費用、そして公証証書の費用である。それ以外には交通費や食費やホテル代などに経費がかかる。例えば、H.L.は「来日経費は皆と同じ7万元です。保証金は5万元です。それ以外の2万元は主に旅費や教育費や出国の諸費用です」と語っている。実際の(保証金以外の)自己負担金額は、1万元〜2万元という範囲でばらつくだろう。その差は中国国内の研修時間の長さや研修生の地元と中国国内研修地との距離などと関っている。

今回A組合の理事長によると、私が調査していた研修生は中国にいた時の平均月収が500元〜800元である。ボーナスを含めてもせいぜい月収の総額は1000元だろう、1万〜2万元は研修生の1年〜2年の収入である。研修生によると保証金の5万元はほとんどの人が借金としてかかえている。

 

4.来日前の情報と知識

調査協力者である中国人研修生が、来日前にどのような情報と知識が持っていたかについて説明する。

 

@情報源

日本へやって来た研修生の来日の情報源には、A組合の研修生はメディアから情報を利用していた。例えば、K.Z.は「故郷のテレビの文字放送の広告で知りました。人材派遣会社があって、そこに応募した。1年ぐらい待ちました。その後、S市の会社を紹介され、そこでA理事長とあって、1月の訓練を受けてから来日しました」と語っている。彼に限らずA組合の研修生9名全員が「地元のテレビや新聞の広告から来日の情報を入手した」と言う。B組合の研修生は友達の勧めや誘いが情報入手の主な方法である。例えば、D.C.は「D.Q.さんの誘いと友達(現在、福井で研修している)の勧めです」と語っている。彼以外の3名も「友達の紹介」だと言う。

実際中国では、外国への出稼ぎ(日本の場合には研修)に関する情報をテレビ、ラジオ、新聞、インターネットなどメディアから得ることができる。それ以外は、友達や親戚の紹介も重要な手段である。

 

A外国人研修・実習制度に関する知識

研修生たちは中国にいた時、日本の外国人研修・実習制度に関して説明は受けているが、具体的な内容はよく分かっていない人が多い。例えば、H.L.は「はじめは研修生制度がよく分かりませんでした。申し込んでから家で2年間待ちました。来日の1週間前、A理事長と通訳の人から説明されました。具体的な内容は良く分かりませんでした」と語っている。また、K.K.は「通訳の人から紹介されました。私たちがいい夢を見るように説明されました。具体的には説明されていないです」と語っている。彼らに限らず、後の12名の研修生全員が「よく分かりません」と言う。

つまり、研修生は来日前に、日本の外国人研修・実習制度に関する知識を何らかの形で与えられている。しかし、実際には、具体的にの制度がどのようなものについてはほとんどの人はよく分かっていなかったのである。

 

B日本社会のイメージと知識

研修生は日本社会に対しての以下のイメージや情報を持っている。

まず、テレビや新聞で見た日本の生活イメージ、すなわち「大都市」、「物価が高い」、「経済大国」、「金持ちが多い」、「お金が儲かる」といった経済大国の印象である。例えば、K.Z.は「日本人は金持ちが多い。お金が儲けやすい」と語っている。また、K.C.は「日本は経済大国です。テレビや新聞の中でよく紹介していました。日本のドラマや映画もよく見ました。お金持ちの人は中国より多いと思います」と語っている。さらに、K.K.は「正直言ってほんとに日本へ行きたかったです。昔中国の会社にいたときには、日本の小田原という会社との仕事の関係があって、毎年日本へ研修する社員がいました。あの時は皆が行きたがりました。お金を儲けて中国へ帰ることがみんなの夢でした。第1陣の人は人民元19万8千元持ち帰りました。羨ましいよ。現在は無理でしょう」と語っている。それ以外の研修生も同じことを言っている。これは彼らの来日目的と関係があると考えられる。

また、経済大国のイメージとは異なったものもある。技術に関して「日本は技術大国」という印象を持っている。例えば、K.Z.は「技術が進んでいる」、K.C.は「日本はいい技術を持っています」、H.R.は「テレビや新聞の中でよく紹介していました。日本は素晴らしい技術を持っています」と語っている。

文化的イメージも良い。H.J.は「綺麗と聞きました」、K.C.は「日本人は勤勉な民族だと思います」と語っている。

研修生たちは、来日前にいろいろな誤った情報もうけている。例えば、ある研修生たちは中国で、日本では仕事中は完全に禁煙であると聞かせられていた。彼らは、私の前でも禁煙家を演じようとする。しかし実際、彼らは目立たないところでタバコを吸っている。また、日本の物価に対しても同じような例がである。例えば、D.F.は「中国にいたとき、日本語を教えてくれた先生が、日本についてこういうふうに紹介した。“日本のものは何でも高いぞ。お前ら日本に行ったら何も食べられないぞ。野菜は中国の10倍、お米は8倍するぞ。中国にいる間に沢山食べておけ”。今回、スーパーに来て、値段を見たら安心した。日本でも生活ができる気がした。野菜はちょっと高いが、お米の値段は中国と変わらないぐらいだ。小麦粉は安い。私たちは小麦粉が好きだ」と語っている。

その一方で何人かの研修生たちは、日本のことはよく分かっていないとも言っている。K.Z.の例から見ると、「日本人は金持ちが多い、お金が儲けやすい、技術が進んでいる」と語ったのと同時に、「正直に言えば日本に対してはよくわかりません」とも語っている。実際、別の研修生も同様に、来日前には、日本に対していろいろなイメージや情報を持っていたが、ほんとはよく分かっていないと本音をもらしていた。

 

5.日本での生活

 以下は、研修生が日本でどのように過ごしたかについてまとめたものである。

 

@     母国の情報を得る方法

研修生はテレビと電話で母国の情報を得ている。例えば、K.Z.は「母国の情報はテレビの報道や電話で知ります。電話が中心です。電話の使用制限はありません。ただし、外からは電話がかけられません」と語っている。彼に限らず、14名の研修生全員が「テレビと電話」だと言う。その中でも、電話が研修生にとって母国情報を得る最も重要な手段である。その原因は日本語が上手ではない人間にとって、同じ言語を話せる人との対話がより正確な情報を得る手段だという点にある。

日本のテレビの中ではH.L.が外貨の変化を気にしている。彼は「来日後ずっと、テレビの中の外貨の変化を注意しています。ドルが上がってほしいです」と語っている。それ以外の人はニュースと天気予報に関心がある。

 

A     外出

 研修生の外出については、A組合は門限以外特に制限がなかった。B組合も特に制限はない。しかし、外出の制限こそないものの、実際には、研修生が遠いところは行くことはできないのである。例えば、D.Q.は「外出の制限はないが日本語が分かりませんので、会社やスーパー以外はあまり外出しません」と語っている。同じ答えをした人がH.C.以外には9人いる。H.R.は「毎日が忙しいから遠いところは行ったことないです」と語っている。同じ答えをした人がH.R.以外には3人いる。

 

B     病気になった時の対応

 研修生が病気になった時には、保険が使えるし、言語の問題も特に言われなかった。例えば、K.Z.は「病気や怪我のときは病院へ行きます。保険が使えます。以前はお金が必要なかったが、現在は30%を払います。病院で言語の問題があるとき、書いたり手ぶりをしたりして説明します。どうしても説明ができないときは、会社や組合から通訳を通じて説明します」と語っている。彼に限らず、14名の研修生は「保険が使える。言葉は何となく通じる」と言う。

しかし、研修生が簡単に病院へ行くことは決してできない。仕事を休むとお金がないので、研修生たちは我慢したり、中国から薬を持って来たりする。例えば、H.J.は「病気のときは我慢します。病院へ行く日は給料から650円×8時間のお金が差し引かれるからだ、行きたくてもても行くことがなかなかできません。病気や怪我のときは自分で中国から持って来た薬を飲みます。薬がないときは寮の別の人からもらいます」と語っている。

 

C住宅

A組合の場合には、過去には、大半の研修生がまとめて寮で生活するシステムをとっていた。隣の町で仕事をしている研修生もまとめて寮で生活する。しかし、最近、派遣先の会社の要請で、一部の研修生は、その会社の寮に住むことになった。

各個人が派遣先で住宅の都合をつけることもある。2、3人で派遣される場合には、共同で賃貸アパートに住むこともあるし、1人で派遣される場合には、派遣先企業の寮に一時的に住むこともある。

調査対象のうちB組合に属する4人は、まだ来日したばかりであるが、B組合の場合には、このような人たちがまとめて寮で生活するシステムをとっていない。D.C.、D.Q.、D.G.の3人は賃貸アパートに住み、D.F.さんは、派遣先である建設業者の寮に住んでいる。

ここでも、他の外国人研修生や外国人留学生などとの交流もできるだけ避けるように言われる。これは失踪を恐れてのことと思われる。

 

D     自己保管しているもの

契約書、給与明細書、タイムカード、作業カレンダー、就業規則、パスポート、通帳は組合で保管している。印鑑は研修生が保管することになっている。本来は、契約書、給与明細書、タイムカード、作業カレンダー、就業規則、パスポート、通帳、印鑑は研修生が自己保管するものであるが、ものが無くなることや研修生の失踪を防止するために、印鑑以外は組合で保管することになっているのが通例で本調査の結果もそうであった。それに対しては大半の研修生は仕方ないと考えているが、組合に対してかなりの不信感を持っている者もいる。

 

E     研修生間の関係

 研修生の間の関係は皆すごくいいと言う。例えば、H.W.は「研修生の間は関係がいいです」と語っている。その原因としてH.J.は「皆中国人です」と言っている。また、D.Q.は「中国の時は同じ会社の仲間ですし、ふるさとも一緒です」と言う。このように、研修生たちが同じ地方の出身者の人でいることも、彼らの仲がいい重要な原因であることは間違いない。研修生の間では借金することが時々ある。お金がない時と中国へ送金する時である。中国への送金をするときには、日本人の同僚に頼んで銀行で行うようだ。例えば、H.L.は「お金がない時や中国へ送金したい時には、友達に借ります。お金があったら返します。送金は会社の日本人を頼んで一緒に銀行で行います。銀行の方が比較的安全だと思います」と言っていた。

 

F     日本語習得

研修生の日本語の習得については、A組合の研修生の中ではH.L.と K.C.のように現在も毎日日本語を勉強している人がいる。それ以外では残業が原因で日本語の勉強を放棄する人が多い。例えば、H.R. は「来日前は自分で日本語を勉強しました。来日後は1週間ぐらい勉強しました。現在は忙しいから勉強していません」と語っている。K.C.とH.W.も同じである。彼らは残業の時間が長いので、日本語を勉強することができないのである。それに対して、残業がすくない人、例えば、K.K.は「97年の時、昔の会社が皆に日本語を勉強させました。その後は断続的に勉強したことがありました。自慢じゃないが同期来日の研修生の中では私の日本語は一番だと思います。来るとき、組合のほうは日本語がうまい人が残業も多いと言いましたが、実際はぜんぜん違います。研修先の会社が残業なしなので、日本語が良いかどうかに関係なく残業はないのです。現在は勉強の意欲がなくなりました」と語っている。それ以外の残業が少ない研修生6名も、同様の考え方を持っている。彼らはお金が儲からないから日本語を勉強する気が失った、ということになる。

研修生には日本語習得の動機はある。しかし、時間的制約が障害となる。また、個人差もある。

 K.Z.はスーパーに行く時、物探しの時間にかなりかかった。例えば、買い物のかごがないとき、K.Z.は自分であちこち探した。店員がいるのに、聞きに行かなかった。さらに、卵を買うとき、K.Z.は「1人でいくつ買うことができますか」と聞いた。制限がないと書いているのに、日本語がよく分かっていないので、買う時に迷っているのである。98円の卵は8個入り、10個入り、12個入りがあった。K.Z.は10個入りを取った。何故かと私がと聞くと、K.Z.は「分かりませんでした。では、12個のほうを取ります」と言った。

来日前と初期には、研修生たちも日本語習得の意欲を(個人差はあるが)きちんと持っているように見えた。というのも、ひとつには、研修生たちにとって日本語の上達は、残業ができる条件の良い会社に移るチャンスだからである。私が会ったB組合の研修生たちは、来日後の時間がまた短かったこともあり、日本語の勉強欲望は相当高く感じられた。中でもD.G.は日本語能力試験を受けたいという希望を持っていた。このような人は彼以外には(A、B組合を通じて)見られなかった。これは、彼が経済的動機だけではなく、異文化への興味も持っていたことにも関係があると思う。私から見ても、D.G.の日本語能力は、同期4人の中で最も高く、授業も熱心に聞く。彼は「現在でも、毎日日本語を独学で勉強しています。持ってきた本で文法や語彙などを勉強します」と語っている。しかし、D.G.は、日本語能力試験に関する情報を知らなかった。試験会場についての情報を私に聞いてくるのである。それだけではなくて、日本語能力試験3級が、どのぐらいのレベルを指しているのかも、彼はよく分かっていなかった。3級向けの一般によく知られた参考書を彼は持参していて、ただそれをこなせば3級の試験を受けられるものと思っているようだった。

希望通りに残業の多い会社に行けたとしても、残業が時間的制約になってしまうこともある。来日したとき、H.R.はA組合の同期の中で日本語が1番上手だった。文法は分かっていないが、聴力や文字などの能力は私から見てかなりのレベルだった。しかし、約半年後の説明会の時には、日本語能力はかなり後退していた。H.R.が勤務していた会社は、残業が多く、多い時には朝の5時から深夜0時ごろまで仕事が入る。彼は時間がないことで日本語を勉強できなかったのである。

研修生たちは、日本語ができないことで残業の多い会社に移れないとわかると、その大半が日本語習得の意欲をなくす。例えば、残業が少ないH.J.は、「お金をかせげないなら日本語なんて出来ても出来なくても一緒。だいたいの応対ができればいい」と語っていた。しかし、皮肉なことに、時間が沢山ある彼は、毎日テレビを見たり、日本人と話したりすることによって日本語がかえって上達した。

彼らが日本語習得の意欲をなくす、もうひとつの大きな要因は、彼らに施される日本語教育があまりに基礎的なレベルでしかないことに関わっている。企業と組合にも、「援助」は技術だけではなく、日本の各方面を学ばせたいという意図はあるし、その基礎に言語があることは言うまでもないことである。しかし、実際には、時間的な制約から、職場内コミュニケーションを辛うじて成り立たせる程度の教育しか施すことができていなかった。私自身も研修生たちに日本語を教えたが、「これをやろう」とか「どけ」といった命令文や頻出方言、その他に「ハンマー」などの工具を中心としたわずかな単語が、彼らに教えられるほとんどであり、少しでも複雑な内容には到底手が回らない。文法にあまり触れていないので、日常会話になるとは思えない。これでは、研修生の日本語能力が伸びないのも当然である。

研修生たちの日常生活の中には、いろいろな問題が生じている。しかし、彼らの日本語では、組合に不満をぶつけようにもうまくいかず、誤解やストレスを生む原因になっている。

 

 

G     技能・技術の習得

以下のものは、研修生が技能・技術の習得に関する質問にどう答えたかをまとめたものである。

11月23日 K.Z.   現在毎日していることは、中国のほうでもしていました。技術はなんにも身につけておりません。日本にはいい技術があると思うが、私が働いている会社にはいい技術がないと思います。

11月24日 K.G.   中国にいた時と同じ仕事をしていますので、新しい技術は身につけておりません。

11月27日 H.J.   中国にいる時と同じ仕事をしていますので、技術は身につけておりません。こちらの仕事は中国よりむしろ簡単だと思います。

11月29日 H.L.   技術は身につけておりません。現在している仕事は鋳造ですが、中国へ帰ってもこの仕事はしません。

11月30日 K.Y.   技術は身につけておりません。日本には先進的な技術があると思います。しかし、ここにはないと思います。

12月4日  K.C.   技術はちょっとだけは身につけました。会社で仕事をする時、勉強しました。中国よりは先進的なものですが、帰国後私が使えるかどうかはわかりません。

12月7日   K.K.   技術ですか。来る前には勉強したかったよ。しかし、現在の仕事は    中国でやった仕事と同じなので、新しい技術は身についていません。

12月8日  H.R.   技術はちょっとだけ身につけました。中国へ帰ると使えるかどうかは分かりません。

12月8日  H.W.   技術は身についたかどうかが自分もよく分かっていません。

12月8日  H.C.   現在している仕事は中国の時と同じなので、新しい技術は身につけていません。

12月16日 D.F.   来てからの時間が短いですので、新しい技術は身につけていません。

12月16日 D.C.   現在している仕事は中国にいた時もしたことあります。また、新しい技術は勉強したことがない気がします。

12月16日 D.Q.  来日からの時間が短いですので、日本語はよく分かりませんし、言われたまま仕事をしています。技術を習得したがどうかは、現在のところ言えません。

12月16日 D.G.  来日後の時間が短いですので、新しい技術は勉強したことがありません。今は一生懸命に日本語を勉強しています。

 

以上のようにK.C.とH.R.以外の人は、技術を身に付けていないと答えた。しかし、K.Z. とK.Y.および K.C.は「日本には確かに先進的な技術はあるのだが…」という言及をしている。また、D.F.とD.Q.およびD.G.は来日からの時間が短いことを技術未習得の理由に挙げている。私の見るところ、大半の研修生は、日本の先進な技術・技能に対して学ぶ気持ちを持っている。次の例も、彼らが新しい技術・技能を勉強したい気持ちがあることを示している。

旋盤の実習の日。実習は危険があるので、通訳を頼まれた。旋盤は回っているので体を巻きこむ可能性があるため、先生の指示を彼らが正確に理解しなければならないからである。彼らがこの日使う機械は、デジタル方式の旋盤である。その機械を利用すると、材料の寸法などを数字で入力さえすれば、機械が自動的にそのように加工してくれる。しかし、今回の職業訓練は基礎2級の実習であるので、旋盤の実習は最も基礎のものから始まる。デジタル方式の利用は含まれていなかった。ところが、H.C.以外は全員が既に旋盤の経験者である。H.J.はこのような言葉を言った。「こんなもの、勉強しなくても私はできる。デジタル旋盤のほうが勉強の価値があるな、勉強したいな」。後の3人も同じことを言った。

 

私:じゃ、先生に聞きますか。

H.R.、H.J.、H.L.、H.W.:お願いします。

私:先生、この4人は経験者ですので、デジタル旋盤を学びたいのですが、できますか。

先生:いや、今回は基礎2級の実習です。デジタル旋盤の授業はありませんね。皆に伝えて。あのデジタル機械は触らないで。

私(4名に):先生は、今回の授業がそのような内容はないので、みんながデジタル機械は触らないでね、と言っています。

 

これに対して4人はかなりの不満がある様子だった。かれらは、その後、そうした希望を一切口にしなくなった。彼らは新しい技術・技能を勉強したい気持ちがあるが、勉強への欲望さえだんだんなくなっていったように私には見えた。

 

H     管理費と積立貯金

研修生に関する管理費については、送出し管理費と受入れ管理費の二種類が存在している。送出し管理費は外国の送出し機関が、研修生・技能実習生の派遣や支援を行うのに必要な経費を、受入れ企業から徴収する管理費である。受入れ管理費は団体監理型の場合、受入れ団体が研修・技能実習事業を推進するのに必要な監理や支援に要する経費を、受入れ企業から徴収する管理費である。(国際研修協力機構 2002:150〜151)

 研修生の管理費と積立貯金については、A組合の研修生は来日時間の違いによって、管理費や積立貯金も異なっている。管理費は収入の5%〜8%である。積立貯金は2万円〜4万円である。B組合には、管理費は全収入の5%である。積立貯金は3万円である。A組合の理事長によれば、管理費と積立貯金は中国の派遣会社の要求で徴収したもので、研修生が来日前は派遣会社と交して契約に基づいている。金額は日本の受け入れ会社が支払い金額に応じて計算したものである。つまり、A組合は上の送出し管理費と相当する。実際中国では、派遣管理会社を通じて海外へ派遣する者は労工(日本には研修生)である。派遣管理会社はその収入の25%までが管理費として徴収できる。積立貯金は、失踪を防止すると同時に、きちんとお金が持ち帰れるようにしたものと考えられる。

しかし、今回の調査協力者は「昔、組合は給与から直接に引いていますが、現在は給料をもらったあとで組合へ払います。給与明細書の上は書いていませんでした。なんか帳簿上の関係があるらしいです」と述べている。つまり、組合は表に現れないよう研修生の研修手当と技能実習生の賃金から管理費を徴収している。

管理費それ自体は、上に述べたように、法的問題があるものではない。しかし、管理費を支払う受入れ企業が、それを研修生の研修手当あるいは技能実習生の賃金から徴収してよいのかどうかは別問題である。少なくとも、研修手当というのは、本論文の第二章の「表3−1 研修と技能実習の相違」でもふれた通り、渡航費や滞在費の実費としての支払われるものだ、というのが法務省の解釈である(手塚 1999:70)。したがって、そこから管理費を徴収するのは定義上おかしいのではないだろうか。また、同じ観点からすると、積立貯金を研修手当から引くことにも問題はあるが、こちらの方については、研修生たちがお金をすべて使ってしまわないようにという一種の「親心」が含まれているのも事実である。

 

I     途中帰国の罰金

研修生が研修途中で帰国すると、罰金を払わなければならないことがある。例えば、H.W.は「研修途中で帰国になった場合、罰金を払わなければならないです」と語っている。彼に限らず、14名の研修生全員が「罰金を払わなければならないです」と言う。A組合の理事長は「途中帰国は状況によって対処が異なっています。例えば、研修生を受け入れた会社が倒産した場合や有給休暇を利用しての帰国の場合には、罰金は支払う必要がありません。またこの罰金は日本側が徴収するものではなく、中国の派遣会社が徴収するものです」と述べた。

 

J     問題があった時の解決方法

研修生は、労働や生活に問題がある時、個人の問題はできるだけ自分で解決している。また、友たちに相談する人が多い。組合や会社と関係がある問題は会社や組合と話をするが、必ず解決してくれるとは望んでいないのである。例えば、K.C.は「労働や生活に問題がある時の解決方法には、個人の問題はできるだけ自分で解決します。どうしても解決ができない問題があるときは友達や会社や組合にお願いします。組合や会社と関係がある問題は会社の社長や組合のA理事長さんに訴えます。解決できる問題もあるし、できない問題もあります」と語っている。彼に限らず、14名の研修生全員も同じことを語っている。これらのことから研修生たちは問題解決を自分で抱えこみやすいと考えられる。大半の受け入れ会社は研修生の生活の各方面に直接な管理をしていないので、研修生の不満が昂じた場合には組合にぶつけられることが多いようである。

 

K     生活上の欲求

大半の研修生は将来帰国する時、日本の電化製品・貴金属・バイクなどを持ち帰りたいと考えている。例えば、K.Z.は「バイクを買って帰りたいです。中国で100%日本産のバイクはなかなか見つからないでしょう。日本で買えば100%日本産になるでしょう。但し持ち帰りの手続きが難しいと思います。組合はだめといっているので、多分できないでしょう」と語っている。このことについて組合側に聞いてみると、問題は中国での免税や運送について知識がないことにあるとのことだった。日本人の生活や先輩、同僚研修生の生活に対して羨ましいと感じている人もいる。例えば、H.W.とH.R.は「会社から帰る途中に中古車ショップで安い中古車があった。その中古車は4万円だった。免許があれば買いたいな。買ったら自分で車を運転して会社に行く」と語っている。彼らは日本人の車生活に対して憧れがあると考えられる。苦しい研修生活の中にも研修生は生活に対していろいろな欲求をもっている。

 

L     日本人との交流

 研修生の大半は日本人と交流がないと考えていた。例えば、K.Z.は「日本人との交流は余りありません、普段の挨拶だけ。日本人は喋ることが好きではないと思います」と語っている。勿論彼らに日本語の問題はあるが、日本人の習慣にも問題はある。外国人と交流する日本人は限られている。研修生の主な交流対象は会社の同僚や組合の人である。しかし、交流を認める研修生もいる。例えば、K.K.は「私と日本人との交流はあります。会社の同僚や組合の皆さんと日常会話や仕事の会話など交流しています。しかし、自分の思う通りの表現はなかなか出来ません。書いたり、体で表現したりしながら交流します」と語っている。彼以外にもH.L.やH.R.やH.W.も日本人との交流を認めている。

 

M     日本での生活が研修生にあたえる影響

H.R.は「私は日本での生活の中で影響を受けました。会社の同僚の一生懸命な仕事振りが私の将来に何らかの形で表れるでしょう」と語っている。K.Y.も同じことを語っている。K.Y.とH.R.以外の研修生は、自分が日本での生活で影響を受けていないと語っている。例えば、K.K.は「私が受けた日本での生活の中で影響はあまりないと思います。毎日、仕事ばかりで、日本での生活の実感はあまりないです。考え方や生活習慣は中国時と変わらないと思います」と語っている。受けてない理由として、厳しくて単調な研修生活と日本語の問題が挙げられるのは言うまでもない。

 

N将来に関する計画、イメージなど

研修生は自分の将来に対していろいろな夢や計画を持っている。大きく分けて4つ挙げられる。

第一に、来日前よりいい会社に入社するという夢。その中では、K.Z.と H.C.は高い収入を得られる企業へ入社したいと考えている。H.R. 、H.L.、D.F.、 D.C.、 D.Q.、 D.G.は日系企業に入社したいと考えている。いずれも来日の経験や勉強した日本語を利用することを考えている。

第二に、商売をしたいという夢。元々中国にいた時自営業をしていたH.J. とH.W.は商売したいという。彼らは日本へ来て貯まったお金で帰国後商売を続けたいと考えている。

他の人たちは、現時点では計画がない。K.Y.とK.K.はこのようなタイプの人である。彼らは帰国後考えると語っている。K.Y.は来日の文化的動機を挙げた人である。彼は「将来に関する計画は現在はわかりません。ある本にこのような言葉があります。『四十歳前に金持ちになっていないなら、人生は何にもできでないだろう』。私も同じでしょ。帰国後、故郷の様子を見てからあらためて考えます」と語っている。K.K.は「将来に関する計画は何にも考えていません。中国の現状はよく分かっていないので、帰国してから考えます」と語っている。

最後に、再度外国へ行くという夢である。K.G.は、現在20歳の子供が大学に通っていて学資が必要なことを挙げている。そのためにもう一度外国に行きたいと考えている。

K.K.を除いて全員が、可能ならまた日本へ来ると答えた。K.K.の場合はお金を儲けて中国へ帰るという夢が実現できなかったと考えられる。彼は来日の動機として「中国の会社は日本の小田原という会社との仕事の関係があるので、あの時には毎年日本へ研修する社員がいました。あの時は皆が行きたかったよ。お金を儲けて中国へ帰ることが、みんなの夢が実現できますよ。第1陣の人は人民元19万8千元持ち帰りました。羨ましいよ。現在は無理でしょう」と語っていた。このことから、彼は来日前には、高い目標を持っていたが、その目標は実現できなかったと考えられる。また、彼は中国にいた時、会社の運転手をしている。この仕事は、給料が普通の社員より高いし、仕事が楽であるので再度来日の願望がなくなったのかもしれない。研修生の大半は、さまざまな問題があって、苦しい研修生活をしているにもかかわらず、もう一度日本へ来たいという気持ちを持っていた。その動機は経済的な理由と考えられる。研修生は来日中の3年間は150万円ぐらい儲けることができる。K.Z.は「この組合の中では、私の貯金が一番少ない、もうそろそろ来日後3年になるが、150万の貯金しかない」と語っている。日本の150万円は大体中国の人民元10万元になる。私が調査していた在日中国人研修生は中国時の平均月収が500元〜800元である。ポーナスを含めてもせいぜい月収は1000元だろう。簡単に計算すると、彼らが中国にいる時、3年間の年収は12,000元×3=36,000元である。日本の150万円は、大体中国時の3年間の年収の3倍になることがわかる。このような経済的メリットが彼らの在日研修生活を支え、さらに、再度来日の願望を生み出すと考えられる。その中では残業が多いH.R.、H.W.、H.L.は「名前をかえれば、また来ることができるよ。私達の故郷のCさんはそうして日本に来たよ」と語っている。彼らにとって日本はやはりお金が沢山儲かる所なのである。だから再度来日の欲望が強いのである。

 

第3節 まとめ

研修生は来日前の状況は国内の厳しい状況(高い失業率)の中で、家族との離れ離れの苦しみや、大金を掛かっている仕事をやめてしまったなどの重圧のなかにいる。同時に、研修生は「金持ちが多い」「お金を儲けやすい」「技術が進んでいる」国日本へ金儲けの夢を持って、日本の外国人研修・技能実習制度を利用して来日した。

研修生の来日後の生活にはさまざまな問題がある。そのため、大半の研修生は自分が日本での生活が影響を受けたとは感じていない。しかし、同時に、研修生は生活に対していろいろな欲求を持っている。このような複雑な意識がいろいろなズレを生じている。これらのズレは研修生の中にいろいろな分化を生んでいる。

例えば、A組合のH.R.とH.J.を見ると、残業時間によって収入の多い研修生H.R.とそうでない研修生H.J.の違いが分かる。その結果、生活や意識に違いが見られる。以下の例でこれを説明できる。

「母国情報の知る方法」についての質問に対して、H.R.は「母国情報はテレビや電話を通じてわかります。電話の使用制限はありません。」と答えた一方、H.J.は「母国情報はテレビの報道や電話を通じてわかります。テレビについて前回がA理事長に中国の衛星放送(CCTVの4チャンネル)を見たいと申し込んだが答えはありませんでした。多分無理だと思います。電話の制限は特にありませんが外からかけてくることはできません」と答えた。H.R.と比べると、より中国の情報が欲しがっているようだった。また、H.J.は組合に対してもかなりの不満が持っている。組合に対しての不満は別の問題の答えからもこのような傾向がみえる。

研修生の関係についての質問の答えとしてH.R.は「研修生の間は関係がいいです。」と答えたのに対して、H.J.の答えは「研修生たちの間の関係は仲が良いです。皆中国人です。」と答えた。中国人ということを彼は強調した。

「将来、中国へ帰るとき何を持ち帰りたいですか」という質問に対して、残業が多いH.R.は「車を買いたいが出来ないでしょう。電化製品ぐらいは持ち帰りたいと考えています」と答えた。一方、残業が少ないH.J.は「中国より安い電気製品があれば持って帰りたいです」と答えた。H.J.と比べるとH.R.はより高級なものを希望していることがわかる。

技術・技能の習得については、来日初めは技術・技能習得の勉強への欲望を二人とも持っていたが、その後、H.R.が「身に付いた」と答えたに対して、H.J.は「技術は身につけていない、日本の仕事は中国より簡単だと思っている」と答えた。

日本語の習得は反対の結果が出てきた。残業多いH.R.の日本語が来日初めの時には、十一陣の中で1番いい人である。文法は分かっていないが、聴力や文字などの能力はかなりのレベルになっていた。しかし、半年後の説明会の時には、日本語はかなり後退していた。その原因は、残業が多いH.R.には、日本語を勉強する時間が殆ど確保できなかったである。それに対して、残業が少ないH.J.には、高収入が期待できないから日本語を勉強する気が失った。しかし、時間が沢山あるので毎日テレビを見たり、日本人と話したりすることによって日本語が上達した。

それ以外にも、研修生たちは日本に対して複雑な態度を持っている。上のような否定的な感情以外、研修生は自分の将来に対していろいろな夢を持っている。日系企業や高収入の企業へ入社したい人、自分で商売を始めたい人、もう一度外国へ行きたい人などさまざまである。「もう一度日本へ来るか」の質問に対して、1人を除いて全員が、可能ならまた日本へ来ると答えた。

 再来日する研修生は以下の有利点を持つ。@来日の手続きを熟知している。A少々の日本語能力をもっている。B日本の生活に関する予備知識をもっている。以上のことが研修生たちの中で一種の動機として働いている。しかし、現在日本の法律では合法的な再来日は不可能である。

上のように研修生は在日生活の中で、様々の原因によっていろいろな考え方の違いを持ちながら暮らしている。

 


第五章 結論

 

1節 今回の調査を通じてわかったこと

今回の調査を通じて、先行研究があまりふれてない領域、すなわち研修生の母国である中国国内状況と研修生自身の体験から以下の発見があった。

 

1.中国国内状況からの発見

先行研究から中国人研修生の日本への流入を支えているの理由をまとめると、まず、日本と中国側の所得格差と言えるだろう。日本と中国との経済的水準の格差が円高によって拡大された一方、中国の貧困と失業に悩む人々にとって、日本での雇用機会と高賃金が魅力的に見え始めた。また、日本が太平洋域の唯一の経済大国になり、日本企業の中国進出が急ピッチで進み、日本の製品も大量に中国市場へ輸出されることによって、日本のイメージは経済が豊かな先進大国として深く浸透しつつあるし、航空通信網の発達と情報化社会の影響を受けて、国際移動が容易になってきた。国境の壁が薄くなってきたと言ってもよい。さらに、日本人の中国旅行、滞在の増加あるいは貿易の拡大、資本投下等の経路を通じて、日本についての知識、情報が中国に急速に浸透するとともに、その文化的蓄積によって流出が次第に促進された。しかし、中国人研修生の母国である中国国内の状況と研修生自身の体験についてはあまりふれていなかった。

 中国国内としては、まず、失業状況である。2002年1月時点での中国の失業率は、中国政府によると、3.6%(労働部 2002)であるが、中国社会科学院によると2001年度中国の実際失業率は7%である(中国科学院 2002)。以上の数字の違いは中国の失業の定義によるものである。中国の失業者の定義は“労働の能力があって無職で就職の願望があり、所在地の労働部門で登録した、男性は16歳〜50歳、女性は16歳〜45歳の都市に在住の非農業戸籍の人”である。この定義下の中国政府の失業率はかなり低いだろう。これと比べると中国社会科学院の調査の失業率は現実に近いと考えられる。ちなみに、この数字は農村部の失業者の統計がしていない。農村の「包産到戸」の実行は大量な過剰労働力を生むこととなる。現在、農村の出稼ぎ者は1.5億人〜2億人と言われている。さらに、4億人の過剰労働力が農村から出てくる可能性が極めて高いのである。

また、1989年の春に起きて来た「出稼ぎ」ブームもある。中国の場合には、出稼ぎ者が初めは“盲流”と呼んだが、現在では民工と呼ぶのが普通である。民工とは、農村から都市へ仕事を求めてやって来た人々のことである。現在、中国全体で、故郷を離れ都市部で生活している民工が1.5億人〜2億人存在しているといわれているが、はっきりとは分かっていない。中国の出稼ぎには、農民が都市へ行き、都市の労働者に代わって仕事をするという特徴が見られる。職場を失った都市の労働者が新しい職場として、海外へ出稼ぎ(研修生になる)を選択肢の一つにするは間違いないだろう。同時に、農村の出稼ぎ者にとっても技術を習得してから、より高い生活レベルを獲得する手段として海外へ出稼ぎに行くことが可能になる。つまり、1980年代以降、増加を続けてきた在日の中国研修生には、かつて日本の高度成長を支えた農村からの出稼ぎ労働者たちが次第に都市へ生活の拠点を移していったように、中国から日本へ生活の拠点を移していると考えられる。

しかし、来日研修をするのはそう簡単なものではない。本文の第二章第2節で述べたように、中国側には、研修生として送り出す条件は9つある。研修生はこの条件をクリアしなければならない。日本側は研修生の受け入れ条件3つを決めている。これらを比べると中国側のほうがより厳しいものであることが明白である。元来には、来日研修をする人数はかなり限られているのは当然である。しかし、中国側はあくまでも日本の受け入れ会社の要求に沿って、研修生を派遣するかたちになる。つまり、研修生は日本の受け入れ会社の要求を満たすなら、来日することは可能になる。そのため研修生の数も増加するのである。

 

2.研修生自身の体験からの発見

研修生自身の体験からは以下のことがわかった。

まず来日前には、研修生自身が半年〜2年間ぐらいの待ち時間と来日前の費用として1万元〜2万元が必要になる。また、来日の保証金として5万元が必要である。待ち時間は別にしても、来日費用は研修生にとってかなりの負担であることが間違いないと考えられる。

今回の調査から中国人研修生は在中時の平均月収が500元〜800元である。ポーナスを含めてもせいぜい月収換算で1000元だろう。簡単に計算する6万元〜7万元は研修生にとって年収5年分以上になる。研修生にとってはかなりの大金であることに違いないと思う。実際には彼らはこのような大金を持っていない。今回の調査協力者の全員が借金してこの資金を集めたことがわかった。今回の調査協力者の全員が挙げた来日の動機は、経済的動機である。彼らが「お金を儲けたい」と思う背景はさまざまであるが、来日前の費用は彼らの動機の強さを示している。

 それ以外にも、研修生の管理費について以下のことが分かった。。今回の調査協力者によると管理費は収入の5%〜8%であることがわかった。管理費についてはA組合の理事長は「このお金は中国の派遣会社の要求で徴収したものである。研修生は来日前に派遣会社と契約した。積立貯金も同様である。金額は日本の受け入れ会社が支払い金額によって計算されたものである。」と述べた。実際中国では、派遣管理会社を通じて海外へ派遣するのは労工(日本には研修生)である。つまり、海外への出稼ぎ労働者である。派遣管理会社はその収入の25%までが管理費として徴収できる。管理費以外にも、研修生は水道、ガス、電気、宿舎代、積立貯金も給料の中から引かれる。例えばH.L.の場合には、全給料7万円の中で水道、ガス、電気、宿舎代は2万5千円、積立貯金は2万円である。その以外の研修生も同じである。ちなみに、積立貯金は失踪の防止やきちんとお金が持ち帰れるようにしたものと考えられる。

大金を払って「出稼ぎ労働者」として経済先進国日本へやって来た研修生を待っていたのは、高い管理費、低い賃金、強制の貯金、寮の隔離など、理想からかけ離れた現実であることが今回の調査からわかった。しかし、一人を除いて今回の調査協力者全員が再度来日の願望をもっている。では、なぜこのような苦労があるにもかかわらず、再度来日の願望があるのか。この疑問に対して今回の調査の中で答えがあった。まず、第四章第二節5O「将来に関する計画、イメージなど」の中の「K.G.」の対話の中でこの答えがあった。この対話の中から、研修生は3年の間で大体150万円の貯金ができることがわかる。先程の簡単な計算に基づくと彼らが中国にいる時、3年間の全収入は12,000元×3=36,000元である。日本の150万円は大体その3倍にあたる10万元になることがわかる。このことから、研修生にとって経済的メリットがあると考えられる。それ以外にも、「将来に関する計画、イメージなど」の中から、研修生は来日の経験や勉強した日本語を利用して中国国内で高い収入の企業や日系企業へ入社したいと考えている人がいるし、また、日本へ来て貯まったお金で帰国後に商売したいと考えている人もいる。来日の経験は研修生自身の将来にとって重要なステップとも言える。以上のことから、外国人研修・技能実習制度が、国家と企業にとってのメリットだけではなく、研修生自身にとってのメリットにもなることがわかる。

 

2節 外国人研修・技能実習制度の将来

外国人研修・技能実習制度が、国家や企業や研修生にとってのメリットがある制度だが、決して問題がないわけではない。

受け入れ先の日本企業・団体から見れば、外国人研修・技能実習制度に沿って、研修生に対して住居の保証や日本語教育や技術の育成など、さまざまなサポートをしていると同時に、研修生の失踪や管理費などの問題がある。

研修生の立場から見れば、来日前の状況は国内の厳しい状況(高い失業率)の中で、家族と離れ離れになる苦しみや、大金を掛かっている、と仕事をやめてしまった、などの重圧のなかにいる。同時に、研修生は「金持ちが多い」「お金を儲けやすい」「技術が進んでいる」国日本へ金儲けの夢を持って、日本の外国人研修・技能実習制度を利用して来日する。しかし、研修生の来日後の生活は第四章で書いたように、いろいろな問題が存在し、けっして彼らが来日前に描いた生活ではなかった。

それ以上に深刻な問題は、外国人研修・技能実習制度自身の問題である。一つは研修生の失踪によって、このシステムが不健全であること。もう一つは技術・技能を海外に移転させるシステムが、研修生の勉強意欲の低下によって、実現できないことである。

研修生の失踪問題では、2000年の研修生の失踪人員は、約630人で、前年に比べ300人増加している。研修生・技能実習生が失踪する原因について佐野はいくつかの仮説を挙げている。@研修手当と一般労働市場での賃金に大きな格差があり、こうした劣悪な条件がプッシュ・プル要因となって逃亡・失踪が増加したとする考え方が可能である。A有効求人倍率が低下したとき、すなわち労働市場において求人が少ないときに逃亡・失踪が増加している。B研修生が「受け入れ企業」側の管理が甘くなった隙に逃亡・失踪が増加した。C円の対ドル為替レートが高まる時期に失踪も増加する傾向があり、研修生が日本円を母国へ送金する際に得られるその為替差益がプッシュ要因になっている可能性もある(佐野 2002:124−126)。以上の@・A・Cの3点が研修生の立場から見れば「お金をもっと稼ぐため」の経済的な要因としてまとめることができる。しかし、研修生の生活事情から考えると経済的な原因よりBと最近の「同国人や日本の犯罪グループを利用される」ことがもっと重要な原因と考えられる。

研修生・技能実習生の逃亡・失踪の増加はローテーションシステムとして機能する外国人研修・技能実習制度にとって、結果的に研修生・技能実習生の帰国が担保されないことを意味するのであるから、その機能の不健全と同じである。研修・技能実習後は必ず帰国するようにしている外国人研修・技能実習制度にとって極めて重大な問題である。

もう一つの問題、すなわち技術・技能を海外に移転させるシステムが実現できないことについては、日本側の制約や研修生の在日生活の問題によって、研修生たちがもともともっていた新しい技術・技能を勉強したい気持ちをだんだんなくする、という点が関わっている。

第四章の「技能・技術の習得」では、研修生は中国より先進的なデジタル旋盤を勉強したいが、教える先生は研修生の考え方を無視して、組合の要求に沿って、基礎の旋盤技術しか教えてなかった。それ以外にも、時間的制約によって、組合や会社の日本語教育はあまりに基礎的なレベルでしかないこともわかった。さらに、残業などの原因で研修生の日本語がなかなか上達しない。日本語は研修生にとって在日生活中で最も重要なコミュニケーション手段である。その手段を失うと生活各方面から困難が生じ、技術・技能を勉強したい気持ちをなくすことになる。今回の調査から研修生は日本語の原因で生活上以下の問題が生じた。外出の制限がないものの、門限や日本語が原因で、遠いところへ行ったり、日本人と交流したりする機会が殆どない状況の中で生活していること、労働や生活に問題があった時、組合や会社に研修生は自分の意見をうまく言えないこと、また、日本語の問題から母国の情報はテレビと電話以外、ほとんど得られないこと。母国の情報を得ることは研修生にとって精神的な癒しになることが間違いないと思う。例えば、母国の情報を得るため、研修生H.J.がA理事長に中国の衛星放送(CCTVの4チャンネル)を見たいと申し込んだが応えはなかった。その件について、A理事長に聞くと以下の応えがあった。「彼らが中国語のテレビを見ると日本語の勉強をしなくなるから」。また、また彼は「昔の研修生もそうだったよ、日本語が上手な人で現在社長になった人もいた。私はこのことをして現在の研修生らが理解できないと思うが、将来彼らが帰国後、日本語が活躍するとき私の心がわかる。」と述べた。しかし、研修生にとってストレスを思えば、時間的制約やルールを決めてから、中国のテレビ番組が見られることは研修生の在日生活にとって良いことだと思う。

日本語以外にも管理費や積立貯金や病気の時の罰金といった金銭的な措置にも、研修生がもともともっている新しい技術・技能を勉強したい気持ちを失う要因である。

外国人研修・技能実習制度の将来を如何すべきかについて、佐野の論文「外国人研修・技能実習制度の構造と機能」の中では、1985年以降の円高と人手不足問題の顕在化を背景として、その主流が政府ベースの受け入れから企業主体の「団体監理型」受け入れに移行していくなか、「労働力需給システム」としての性格が色濃くなってきており、その構造と実態はほとんど解明されずに現在に至っていることが明らかにされている。外国人研修・技能実習制度の問題について、その構造と実態を明らかにする必要と彼は強調している。その作業においては、需給システムの運営・維持にどれだけのコストがかかるのか、そしてそのコストを誰が負担すべきなのかと言う問題について、様々な段階でチェック・検討しながら行う必要がある。この作業は外国人研修・実習制度を完全なる『労働力需給システム』として再編することを目的としない。あくまでも第一に必要なのは現行同制度の適正な運用であって、そのためにも運用(需給調整)にかかりうるコストは、受け入れ側が、同制度の目的である「国際的貢献」を前提として経済合理性によらず確実に負担するよう、システムを整備していく必要がある、と佐野は主張する(佐野 2002:127−128)。これは「コスト再配分→制度の縮小」ヴィジョンと言ってよいというのも、佐野のヴィジョンを実施するとコストは日本の企業に「適正に」課されることになるだろう。それでも「国際的貢献」をやりたいのならば、経済合理性によらずどうぞおやりなさい、というわけである。

私は佐野の「現行同制度の適正な運用」の主張については同感しているが、「コスト再配分→制度の縮小」ヴィジョンに対して、元々力が弱い中小企業が負担できるか、また、研修生から別の安価な労働力を求めるだけで、社会的な意義がないのではないかと疑問をもっている。

本文第三章の【図3−4】と【図3−5】のグラフからみると、資本金も1千万円から3千万円程度で、従業員100人以下の中小企業研修生の受け入れに熱心であることが分かる。このような企業は生産性が低く、日本人が雇用されにくい分野である。もともと力が弱く、経営が不安定であるなどの理由で研修生や技能実習生を受け入れている企業の周囲には、既に倒産・廃業した企業がすくなくない。このような企業が外国人研修・技能実習制度の需給システムの運営・維持のコストを、今以上に負担することができないことは明らかである。つまり、「コスト再配分→制度の縮小」ヴィジョンでは現行同制度の適正な運用することが維持できないかもしれない、ということを意味する。

研修生から別の安価な労働力を求めるだけで、社会的な意義がないのではないかという疑問については、現行同制度の適正な運用の下で、研修生以外の安価な労働力を求めることが難しいという実際的な問題よりも、外国人研修・技能実習制度の初志である国際交流という点で問題がある。国際交流という観点からすれば、淘汰されつつある中国地方小都市の熟練労働者の技術力を上げるチャンスを無くすべきではないと私は考えている。例えば、本論文の調査対象となっている人々についていえることは、H町および大連市の周辺K区の出身者だということである。彼らの地元は、外資系企業と、経営の合理化と豊富な資金力を背景に進出してきた国営企業とに押されて、彼らが就職している郷鎮企業は経営難に陥るケースがある。しかし、彼らにとって外資系企業に就職するには学歴や距離的要因によって不利になる。こうした人々が熟練した技術を磨くことは重要だし、また、彼らが持ち帰った技術で中国地方小都市の産業が多少とも息を吹き返すことになれば、それは極めて重要なことなのである。

研修・技能実習制度を大いに活用し普及させているのは日本でバブル以降人手不足が叫ばれている業種――製造業や建設業などの中小企業である。このような人手不足が叫ばれている業種は、先進国である日本の人たちにとってはあまり華やかに表に出てくるものではないかもしれないが、発展途上国にとってはこれから生産技術の改良を目指す上で必要不可欠な分野であり、これらの分野に積極的に研修生を招く意義はあると言えるだろう。実際には、習得した技術が即戦力になるわけでは必ずしもないが、日本語や、日本で生活した経験が買われて、帰国後に通訳や日系企業に採用される例もある(A組合の理事長の話による)。

以上のことと調査の結果をふまえ、私が研修・技能実習制度を改善すると考える方法は、先にも述べた通り、現行制度の適正な運用が基本である。その運用は技術・技能を海外に移転させるシステムを研修生が在日研修によって確実に実現するようにすることである。そのためには、行政の監督は甘いと言わざるを得ない。研修生の管理費問題や残業によって日本語の勉強時間が確保できないなど、法的にはしていけない行為を日本の組合や会社は日常的にしている。また、現行制度はあくまでも会社や組合の要求に沿って研修生の研修計画を設定しているが、このような計画は人手不足の中小企業にとっては、研修生のための技術・技能を海外に移転させるシステムではなく、自身の人手不足を補充するシステムである。このような状況の中で、研修生・技能実習生は日本に居る間、不十分な日本語教育と生活上の制約によって、ストレスを溜め、技術習得意欲を削がれることになる。このことから、私が日本国家はもっと積極的にリードすべきであると考えている。国の監督を強化して、現行制度をより本来の目的に近づけ、一定のコストを日本国家が負担する。研修生の待遇と環境を改善すると同時に、研修生・技能実習生の日本語をはじめ日本の文化や技術習得の意欲を高めれば、研修・技能実習制度の本来の目的、日本企業が保有する技術・技能の海外移転を進めて行うことがも可能になる。また、技術・技能の海外移転によって、研修生の地元産業を振興することができる。このような改善方法がもっとも望ましいと考えられる

 


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中国科学院,2002,「2002年度中国科学院人口と労働緑皮書」

手塚和彰,1999,『外国人と法(第2版)』有斐閣

佐野哲,2002,「外国人研修・技能実習制度の構造と機能」駒井洋編,『国際化のなかの移民政策の課題』明石書店,91-129

蔡ム,2000,『中国流動人口問題』河南人民出版社

山田鐐一・黒木忠正,2000,『わかりやすい入管法(第5版)』有斐閣

 


補 足

1.中日研修生協力機構会員一覧表 と営業許可書(見本)

中国吉林国際経済技術合作公司

中国天津国際経済技術合作公司

中国瀋陽国際経済技術合作公司

煙台国際経済技術合作公司

中国大連国際合作(集団)股份有限公司

中国上海外経(集団)股份有限公司

中国江蘇国際経済技術合作公司

中国福建国際経済技術合作公司

中国浙江国際経済技術合作公司

中国北京国際経済合作公司

中国広東国際経済技術合作公司

中国四川国際経済技術合作公司

中国武漢国際経済技術合作公司

中国国際技術智力合作公司

中国江西国際経済技術合作公司

中国軽工業対外経済技術合作公司

中国建築工程総公司

中国機械対外経済技術合作公司

中国石油工程建設公司

中国冶金建設公司

中国建材工業対外経済技術合作公司

中国技術進出口総公司

中国航空技術国際工程公司

中国四達国際経済技術合作公司

中国海外工程総公司

中国広東対外労務経済技術合作公司

中国化学工程総公司

中国成都国際経済技術合作公司

中国寧波国際経済技術合作公司

威海国際経済技術合作股份有限公司

中国山東国際経済技術合作公司

中国山西国際経済技術合作公司

中国甘粛国際経済技術合作公司 20024月除名)

中国ハルビン国際経済技術合作公司

中国寧波技術進出口公司

中国深セン国際経済技術合作公司

中国青島国際経済技術合作公司

中国アモイ国際経済技術合作公司

中国重慶国際経済技術合作公司

中国雲南国際経済技術合作公司

中国広西国際経済技術合作公司

中国土木工程集団公司

中国交遠国際経済技術合作公司

中国有色金属工業対外工程公司

中国海外経済合作総公司

中国新興工程建築房地産開発総公司

中国港湾建設(集団)総公司

中国遼寧国際合作(集団)股份有限公司

中国光大国際経済技術合作公司

中国西安国際経済技術貿易公司

北京長城工程総公司

上海対外労務合作公司

上海軽紡工業対外経済技術合作公司

中国河北国際経済技術合作公司

中国国華国際工程承包公司

中国長春国際経済技術合作公司

中国国際企業合作公司

中国国際計算機軟件工程公司

中国黒龍江国際経済技術合作公司

中国張家港国際経済技術合作公司

中国内蒙古国際経済技術合作公司

中国成套設備進出口(集団)総公司

中国舟山国際経済技術合作公司

吉林化学工業進出口(集団)総公司

江蘇省建築工程総公司

中国出国人員服務総公司

中国化工進出口総公司国際工程貿易公司

大連華南国際経済技術合作公司

貴州省橋梁工程総公司

上海市対外服務有限公司

遼陽国際経済技術合作公司

山東栄成国際経済技術合作公司

泰安国際経済技術合作公司

浙江省建築工程総公司

河南国際経済技術合作公司

中国機械設備進出口総公司

浙江省糧油食品進出口股份有限公司

四通国際経済技術合作公司 (20024月除名)

中国海外貿易企業集団総公司

華潤国際経済技術合作有限責任公司

中国国際人材開発中心

安徽国際経済技術合作公司

浙江中大(集団)股份有限公司

中国陝西国際経涛技術合作公司

江蘇省対外交流公司

吉林省招商建設総公司

山東省五金砿産進出口公司

福建省対外労務合作公司

吉林国際人材技術交流公司

威海朕橋国際経済技術合作公司

合肥市対外経済技術合作公司

蘇州国際経済技術合作公司

蕪湖国際経済技術合作公司

山東威海進出口(集団)公司

黄河経済協作区聯合発展集団公司

鄭州国際経済技術合作公司

青島市五金砿産機械進出口公司

万県市国際経済技術合作公司

貴州国際経済技術合作公司

河南省対外労務合作公司

東方国際集団国際経済技術合作公司

延辺海外経済技術合作公司

中遠対外労務合作公司 (20024月新入)

中国国際経済技術合作コンサルティング公司(2002年4月新入)

吉林省海外経済技術合作有限公司(20024月新入)

大連市建設工程集団有限公司 (20024月新入)

山東省対外貿易集団有限公司 (20024月新入)

大連経済技術開発区労務公司(20024月新入)

遼寧国際貿易公司 (20024月新入)

広東新広国際集団有限公司(20024月新入)

中国プラント設備輸出入上海公司 (2002年4月新入)

陝西沢信対外経済技術有限公司 (20024月新入)

北京城建国際工程有限責任公司(20024月新入)

湖南環球(集団)公司(20024月新入)

唐山国際工程総公司

中国海外貿易経済技術服務公司 (20024月除名)

鉄嶺国際経済技術合作公司 (20024月新入)

 

 

2.技能実習移行対象職種:技能検定関係(49職種76作業) 1999420日現在]

職種名

作  業  名

鋳造

鋳鉄鋳物鋳造作業、銅合金鋳物鋳造作業、軽合金鋳物鋳造作業

鍛造

ハンマ型鍛造作業、プレス型鍛造作業

機械加工

普通旋盤作業、フライス盤作業

金属プレス加工

金属プレス作業

鉄工

構造物鉄工作業

工場板金

機械板金作業

アルミニウム陽極酸化処理

陽極酸化処理作業

めっき

電気めっき作業、溶融亜鉛めっき作業

仕上げ

治工具仕上げ作業、金型仕上げ作業、機械組立仕上げ作業

機械検査

機械検査作業

ダイカスト

ホットチャンバダイカスト作業、コールドチャンバダイカスト作業

機械保全

機械保全作業

電子機器組立て

電子機器組立て作業

電気機器組立て

回転電機組立て作業、変圧器組立て作業、配電盤・制御盤組立て作業、開閉制御器具組立て作業、回転電機巻線制作作業

染色

糸浸染作業

ニット製品製造

靴下製造作業、丸編みニット製造作業

婦人子供服製造

婦人子供既成服縫製作業

紳士服製造

紳士既成服縫製作業

幌布製品製造

幌布製品製造作業

布はく縫製

ワイシャツ製造作業

さく井

パーカッション式さく井工事作業、ロータリー式さく井工事作業

建築板金

ダクト板金作業

冷凍空気調和機器施工

冷凍空気調和機器施工作業

建具製作

木製建具製作作業

石材施工

石材加工作業、石張り作業

建築大工

大工工事作業

かわらぶき

かわらぶき作業

とび

とび作業

左官

左官作業

タイル張り

タイル張り作業

配管

建築配管作業、プラント配管作業

型枠施工

型枠工事作業

鉄筋施工

鉄筋組立て作業

コンクリート圧送施工

コンクリート圧送工事作業

防水施工

シーリング防水工事作業

内装仕上げ施工

プラスチック系床仕上げ工事作業、カーペット系床仕上げ工事作業、鋼製下地工事作業、ボード仕上げ工事作業、カーテン工事作業

熱絶縁施工

保温保冷工事作業

サッシ施工

ビル用サッシ施工作業

ウェルポイント施工

ウェルポイント工事作業

表装

壁装作業

家具製作

家具手加工作業

印刷

オフセット印刷作業

製本

書籍製本作業、雑誌製本作業、事務用品類製本作業

プラスチック成形

圧縮成形作業、射出成形作業、インフレーション成形作業

強化プラスチック成形

手積み積層成形作業

ハム・ソーセージ・ベーコン製造

ハム・ソーセージ・ベーコン製造作業

水産練り製品製造

かまぼこ製品製造作業

塗装

建築塗装作業、金属塗装作業、鋼橋塗装作業、噴霧塗装作業

工事包装

工事包装作業

 

技能実習移行対象職種:JITCO認定関係(10職種26作業)  [200061日現在]

職種名

作  業  名

建設機械施工

押土・整地作業、積込み作業、掘削作業、締固め作業

溶接

手溶接、半自動溶接

缶詰巻締

缶詰巻締

漁船漁業

かつお一本釣り漁業、まぐろはえ縄漁業、いか釣り漁業、まき網漁業、底曳網漁業、流し網漁業

紡績運転

精紡工程作業、巻糸工程作業

織布運転

製織工程作業

加熱性水産加工食品製造業

節類製造、加熱乾製品製造、調味加工品製造、くん製品製造

非加熱性水産加工食品製造業

塩蔵品製造、乾製品製造、発酵食品製造

耕種農業

施設園芸

畜産農業

養鶏、養豚