関口進 著『テレビ文化〜日本のかたち〜』

(1996年  学文社)

この本は、日本でテレビ放送が始まって40年以上たった今、様々なジャンルのテレビ番組を取り上げ、振り返り海外のテレビ放送と比較しながら、今後のテレビ放送の方向性を網羅的にまとめたものである。初期の段階ではテレビ放送は先行するメディアの表現技術や手法を次々に取り込んでいったが、その後、独自の表現を作り上げていった。テレビは今も表現技術をはじめ番組内容、表現方式などで変化や新しさを求め続けているのである。

第1章では、テレビ表現の変化の歴史をみていきながら、受け手である視聴者の変化も取り上げている。テレビは多くの受け手を可能にする、印刷、写真、映画、録画、通信、コンピューター技術などの複製技術を合わせて利用して、視聴者獲得に努めて来た。送り手側の技術の発達は視聴者にテレビの接し方や効用もを変化を与えて来た。送り手、受け手の変化によりテレビ分化も変化していくのである。

第2章では、テレビニュース番組の表現方法による変化を取り上げている。テレビ放送のはじまった頃のニュース番組は、いまほど人気は高くなかったが、フィルムの編集技術の発達やニュースキャスターの登場により、徐々に視聴者をひきつけていった。その一番の要因は見ている者に飽きさせないための番組作りが考えられる。ただニュースを読むだけではない、娯楽性の高いニュース番組が増えて来たことが、視聴者に受けいれられて来たのである。

第3章では、テレビの演芸番組の歴史を取り上げている。演芸というのはバラエティはもちろん情報番組やクイズ番組を総称した言葉である。テレビの初期は寄席演芸の中継が中心であった。演芸番組がスタジオ収録が増加していく中で、テレビスターは、コメディアン系統のタレントの進出が目立つようになっていった。しかし、どんなタレントであっても、番組の企画や演出に沿った線でしか演じることしかできない。個性が失われてしまうのである。またバラエティ番組は低年齢層に傾いているので、30代以上の視聴者獲得が望まれている。

第4章では、日本の衛星テレビと多チャンネル化とその問題点を取り上げている。通信 衛星の発達により、世界中の映像を瞬時に得ることができるが送信地域以外で電波が漏れる、スピルオーバーが問題になる。文化の異なる外国の電波を受信するため、文化的、社会的影響が指摘されている。CS、BS放送の発達による多チャンネル化は受け手に大きな影響を影響を与える。見たいときに見たいものを見ることができるため、視聴者も細分化してより専門的なチャンネルが必要である。一方地上波テレビにも生き残りのために番組制作が必要である。

第5章では、マルチメディア時代のビデオソフトについて取り上げている。ビデオソフトとは映像と音声により表現され、伝達される情報であり、それがマルチメディアによって、いままでは出来なかった表現方法や伝達情報が可能になるのである。これによりさまざまな場所でネットワークを通じてコミュニケートされるようになる。それは、情報の質にも量にも影響を与えると思われる。また、情報を有用に利用されるためには、通信ネットワーク上のシステムとともにルールづくりが必要になってくる。

テレビ放送の発達は技術的な面での発展をかかすことができない。送り手側も視聴者獲得のためにそれを上手く利用して、様々な工夫をこらしている。本書を通してそういった送り手側の歴史が非常に詳しくうまくまとめられていた。しかし、もう1歩進んで受け手にどのような影響を及ぼし、テレビ文化を作っているのか書いてあればと思った。

(吉川 正和)


目次に戻る