春日キスヨ著「父子家庭を生きる 男と親の間」

(勁草書房 1989年)

現代社会は依然として性別分業を支配的構造とする社会である。その社会の中で女の領分とされる家事・子育てを引き受けて生きる父子家庭男性たちの集まり〈父子の集い〉でかわされた会話を分析している。

序章では〈父子の集い〉の紹介、筆者が〈集い〉を通じて感じた「女性が不当に扱われている社会は男性も不当に扱われている社会だ。」という思い。更に、離婚して父と子だけの家庭が多い現状について書かれている。

第T部は「男の生きる世界」と題し、子育ては女の仕事とされるこの社会で、なかなか〈親〉になりきれない男たちの葛藤が書かれている。男性が一人で子どもを育てようとするときに突き当たる厳しい現状や周囲の眼。一般的に母子家庭の方が経済的に厳しいと言われているが、様々な要素を考えると父子家庭でも同様に厳しいこと。死別よりも離別の方が世間の眼、親戚との関係や福祉事務所の扱いなどが格段に厳しいこと。周囲やマスコミなどの偏見が根強く存在していること。相談したくても相談しやすい相手が身近にいないことなど。男性優位であり、男は強くあるべき。また、子育ては女がするもので男には難しいという根強い性別分業意識の社会で、離別父子家庭男性がいかに大変な思いで子育てをしているかがありありと伝わってくる。

(田中 麻希)


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