森岡清志 編著『ガイドブック社会調査』

(日本評論社 1998年)

「コクセイチョウサ」は「シッカイチョウサ」だということを一体どれほどの人々がご存知だったろうか。「悉皆」を「シッカイ」と読めない人だっておそらくたくさんいることだろう。 そうした基礎中の基礎、「おまえ、そんなことも知らんのか」というぐらいの基礎が、昨今の社会学を学ぶ学生はなっておらんと筆者は嘆いておられる。更にそうした無知蒙昧が間違った調査をそのまま受け入れ、間違った情報に基づいて社会が動いていくことを筆者は恐れておられる。そんな不満と不安が、すなわち憤りとなって本書は生まれたそうである。

1章はさまざまな調査方法の類型、それぞれの特徴、すなわちどんな問題意識にどの方法が適当か、その際何に注意すべきかといった事柄についての説明がしてある。筆者はこの中で、方法の安直な採択と慎重さを欠く分析を厳に戒めている。また社会調査の入門編として標本調査の特性を詳しく述べている。何をどのように調べるのか。それを具体化するうえで関連する予備知識が必要になってくる。

2章は調査以前のデータ収集(例えば先行研究の分析)のテクニックについて書かれている。 文献検索の仕方やその活用法、データ・分析結果の整理の仕方が参考文献とともにくどいほど丁寧に説明してある。

第3章は調査票の特性について。「社会調査で何が出来るか」、出来ることと出来ないことを明確に区別しないまま社会調査に幻想を抱いていては、せっかく苦労して採集したデータも全 く役に立たないものになってしまう。調査を行う上での留意点、何を期待して調査を行おうとするのかを挙げている。

3章で調査の予備知識、心構えを踏まえた後、第4章では調査の流れを具体的に追って調査の企画を立てていく。単純な技術的な問題ではなく、予算、日程、対象者との関係など、調査に まつわる想定されうるさまざまな問題についての対応のシュミュレーションをしてマニュアル作成する必要がある。「社会調査」というイベントを企画する上でのプロセスを詳細に書いてあり、参考になる。

第5章に入って今度はいよいよ実査の作業マニュアルである。大まかにプランニング後のプロセスをたどってどのように調査を行っていくか、調査のコーディネイトのさい気を付けることが述べられている。

6章はサンプリングについて。サンプリングは調査の成否を分ける一つの山場だけに正確を期さねばならない。正しいサンプリングとはなにか。何故サンプリングが必要なのか。よくある 間違いにどういったものがあるか。サンプリングだけでも1章分だけのことを述べることができるのである。次は調査票である。いい調査票とは「調査の「目的」に合致し、「実査」に即し、「分析」に適していなければならない。ではなぜそう在らねばならないか、どうしたらそのような調査票が作れるのか。

第7章では調査票作成について、そのパターンを紹介しながら説明していく。実査後のヤマバは分析であるが、その前に控えているのがデータの整理・チェックである。

8章はそうした「分析するためのデータを整える」作業について述べている。分析前の作業とはすなわち、得られたデータを踏まえて、調査票・コーディング・データ入力・入力データと極外値の検出・尺度の信頼性といった各プロセスにおいて浮かび上がってくるデータの加工をしチェックする作業である。データを整理する過程を経なければ、分析は十分にはできない。軽視されがちな作業を詳しく述べている。

第9章はいよいよ分析に入る。この章は社会調査の分析の基礎的なものとして、統計調査の分析を用いている。したがって意味も分からずに何となく行っていた分析の各プロセスの意味を、統計学をほとんど知らなくても理解することができる。ここで筆者は、明確なイメージを持ち且つ客観的手法に徹することを注意している。基礎的、標準的な説明ながら、ある程度のパターンも盛り込まれていて参考にするにはうってつけだ。

第10章。この本は、なんと調査結果の公表についても詳しく述べられている。公表するということはどういう事なのか。すなわち発表者には「書きながら考える」こと、他者には「異なる眼差しに作品を掲示する」ことであると筆者は述べている。報告書の作成については各分析法ごとの記述の仕方、原稿の中の言葉づかい、レイアウトにいたるまで親切に説明してある。

簡潔に言ってしまえば、調査票づくりや実査に関する知識、調査データの集計・分析と知見の整理に関する知識など、収集する調査データの質を高め、事実の「発見」ができるような社会調査の心構えとノウハウを満載した、ようするに入門書なのであるが、なにせ本の中にも「調査法の本を読んでもよくわからなかった人」や「講義をサボった人へ」と冒頭に銘打ってあるだけに、こんな本があるのはありがたさを味あわずにはいられない。さてそんな1冊を精読したからには今後取り組む調査がよりよい出来栄えになることを期待できるだろう。

(福田 宏城)


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