伊藤公雄、1996、『男性学入門』、作品社


 今の社会で、「男女差別はないです」と胸を張って言える人はそういないだろう。このいつまで経ってもなくなる様子を見せない男女差別について、いろいろな人達がいろいろな考えを述べてきた。
 それらの主張の多くは「女性がいかに理不尽で不当な扱いを受けているのか」ということを強調し、それらを改善させてゆくべきである、といった様なものであった。
 しかしここ最近、少し違った意見が出てきた。それは「実は男性だって大変なんだ」というようなものである。
 この本は男性の視点に立ってジェンダーを論じた、まさに「入門書」といえるであろう。
 まず、第1章では、「悩める『男の一生』」と題して、現在の男性の生活の実情が書かれている。
 いじめで自殺するのは圧倒的に男の子が多いといったことから始まり、「結婚難」「若年性離婚」「サラリーマンの過労死、自殺の急増」「帰宅拒否症候群」「定年離婚」と、いうような現在男性が(主に家庭で)直面している問題について統計資料などを交えながら説明し、それらの原因を夫婦間のディスコミュニケーションにあるのではないかとしている。
 さらに第2章では1章であげられた事柄についての原因を「男らしさ」「男のメンツ」にあるとして男らしさとは何か?それがどのように作られるのかといったことが述べられている。そして男らしさは元々あるものではなく様々なものによって「男ならこうあるべき」姿に作られてるのだとし、その鎧によって1章のような問題が起こるとしている。そしてその男らしさの鎧を脱いでいこうじゃないかと、筆者は主張している。
 第3章は男性学とは何であるのか?といったことが述べられてる。日本の男性学の現状だけでなく、アメリカ、ヨーロッパの男性学についてもふれ、最後に今後男性学が今後どうなってゆくのかということについて女性学と男性学と重なりつつ、大きなジェンダー論といったものになってゆくだろうとしている。ただ、そこに行き着くまでにまだまだお互いが成長することが必要だろうとしている。
 そして第4章、5章ではそれぞれジェンダー論、女性学について、それらの起源、歴史、問題点などが分かりやすく説明されている。
 第6章では筆者本人の「主夫」体験を含め何人かの「主夫」生活体験記が書かれている。そして最後に、家庭と仕事に男女の区別は関係ないと主張している。
 第7章では「ニッポンのお父さんたちへ」と題して、現代の父親像について考えられている。
 その中でアメリカ、ドイツの父親像と、日本の父親像を比べたり、求められてきた父親像の変化などが書かれている。また、女性(母親)の側からの要求に触れることによって、女性問題としての父親問題について考えている。
 そして最後の第8章では、「メンズ・ムーブメント」について論じている。筆者自身の活動や、市民講座の様子が述べられ、男性に「もっと元気になろう」と呼びかけている。この、元気とは「自己表現出来る」というようなことで、今まで男性は「用件のみ」を表現すれば(伝えれば)よいと、されてきたが、それだけではなくもっと、(女性的で敬遠すべきと考えられてきた)自分の「気持ち」を伝えるコミュニケーションを取ることによってもっと開かれたムーブメントを起こそうじゃないかと主張している。
 そのムーブメントの形として筆者は「世界男性会議」を提案している。

と、内容をまとめてみるとこんな所です。本のタイトルも『男性学入門』とある通り、中身は殆ど専門的な言葉は使われておらず、とても分かりやすい。特に前半はいろんなデータがグラフで表わされているので男女を取り巻く様々な事柄について、新しい発見をすることも出来るのではないだろうか。
 将来「濡れ落ち葉」になっていきなり奥さんから離婚を言い渡されるようなことのないように、是非多くの男性方に読んで頂きたい。と、言っても、この本を手にとって読むような方には、元々そんな心配は少ないのだろうけれど・・・。
 ただ、入門編ということもあっていろんなことがつまってるせいか、もう少し突っ込んだ筆者の意見といったものがあればとも思う。

(山根千尋)

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