バリー・グラスナー 著 小松 直行 訳『BODIES[ボディーズ] 美しいからだの罠』(潟}ガジンハウス 1992年 281頁)


 今日、アメリカにおいてダイエットやフィットネス・美容整形がブームである。本書は、そうしたブームの裏側にひそむ人々の心理について、社会学者により書かれた本である。著者は、これらの研究法として統計調査を用いず、90名もの人たちにそれぞれインタビューをし、統計数値ではわかりかねないひとりひとりの姿を把握しようとしている。そのため、本書の構成もほとんどがインタビューである。本書は、多くの人々が理想のからだ像に呪縛され、外見にこだわりすぎているため、真の自由を失っていると警告している本である。
 本書は全体が三部から構成されており、それぞれ、PARTI 完璧なからだへの呪縛、PARTII メイキング・ザ・ボディ、PARTIII からだをつくり変える というタイトルがつけられている。
 PARTIは、本書の構成のうえで、前提的なことが書かれている部分である。私たちは日常生活のなかで広告、雑誌、テレビなどを通じて数千ものハンサムな男性と美しい女性を目にしてきている。そして、それらが私たちにとって”模範的なからだ”のイメージとなっている。歴史的にみて、印刷機や写真の技術の進歩により、視覚が重視されるようになったという。そして、人々は以前行なわれていたように、バックグラウンドでお互いを評価するのではなく、その人のもつイメージを手がかりに他人を判断するようになったという。人々は外見のイメージの重要さに気づいてきている。また、メディアも理想的なイメージを利用して、購買意欲を高めている。ところが、この理想的イメージというものは、自分や周囲の人々についてどう思うかということにまで影響する。それどころか、社会の要求するイメージを深刻に受けとめて、拒食症やエクササイズ狂になり健康的な状態を損なう場合もある。
 PARTIIでは、メイキング・ザ・ボディについて書かれている。私たちは、他人の理想や期待に合わせて、自分の容姿に対して何らかの働きかけをし、自己を変えようとする。ある子どもが大人になったときの体型は、その子どもの家族間の力学によるところが大きい。子どもは両親からのメッセージを意識的であれ、無意識的であれ、絶えず受け取って成長していくのである。この視点から、拒食症やエクササイズ狂に陥る人の心理をみている。また、男性にとっては、容姿は成功を示す重要な武器である。そうした社会のメッセージにこたえて、奮闘している人々も登場する。
 PARTIIIでは、理想に沿うようにからだを変える人々をあてこんだ、ヘルスクラブや減量プログラム、美容整形といったことにつての話がでてくる。これらは、医学的裏付けを用いたり、健康になれるということを主張して、年間何十億ドルをも稼いでいる。著者は、当世のブームに指図されたやり方でなく、それぞれ自分の必要に応じた方法で運動や食事をしていくような自由を手に入れなくてはいけないと結んでいる。
 この調査は米国で行なわれたものであるが、日本でもアメリカのあとを追うようにダイエットやフィットネスブームが見られる。そうした意味で、本書は社会学や心理学を専攻している人だけでなく、ダイエットやフィットネスに興味のある人にとっても、一読の価値のある本であろう。
(垂沢 由美子)

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