梶田 孝道 著『外国人労働者と日本』(日本放送協会 1994年)

外国人労働者問題を考える上での必読書

 80年代、日本に大量の外国人労働者が流入してきた。しかし、一口に外国人労働者といっても、不法滞在者の増加、偽装難民、日系人の流入など、問題の多発や、国籍の多様化、「ジャパゆきさん」と言われる風俗産業から製造業や建設業の現場で働く外国人男性の一般労働者の増加、という労働内容の変化、など複雑化してきた。それ由に、これまではその事実を把握するのに精一杯であった。しかしここにきて、この問題を構造的にとらえ直すべき時期にきた、という著者の考えから、本書は、蓄積された多くの事実に形を与え外国人労働者の問題を概念として把握していく、という目的のもとに書かれている。その意味では、これまで数多く出されてきた「○○○の実態」などのドキュメンタリー形式のものとは違った、外国人労働者問題の本質に迫る注目の一冊であるといえる。
 例えば第一章において著者は日本の外国人労働者の対応の仕方を「バックドア」政策であると指摘している。つまり建て前では入国を拒否しているが、「留学生」「就学生」「研修生」「難民」などのあいまいなカテゴリーで入国を認めている。つまりこの入口が「バックドア」であるというわけだ。これによって日本政府は外国人労働者の人権問題、労災などの責任を回避していると更に指摘する。
 また第三章では「セグリゲーション」(=地理的集中)について述べられている。セグリゲーションが起こる原因と問題点を論理的に展開し、今後の方針「住み分け」よりも「住み合い」、セグリゲーションにかわる機能的手段、というように発展させている。これまでの「○○○の実態」などのドキュメンタリー形式とは全く違った、セグリゲーションを論理的に捉えているという点で、本書の特長を端的に表している部分であると思う。更に第四章「外国人労働者問題のなかの文化」、第七章「外国人労働者の定住化は起こるか」の中で深くほり下げて述べてある。
 このように先に述べた著者の目的の通り外国人労働者問題を構造的に捉えられており、この問題に関心のある人にとって必読の一冊であろう。ただ、ではこれから先日本人はどのような政策のもと外国人労働者を受け入れてゆけばいいのか知りたいという気になる。これを社会学者に求めるのは見当違いなのかもしれないが。
 もしかしたらそれは、本書を手にしたわれわれが考えることなのかもしれない。
 では考えようではないか!
(鹿股 宏章)

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