補論 インタヴューの技術的な面に関する反省的考察

 

野川 志帆

 

   今回のインタビューの調査実習における技術的な反省点について、3つの段階に分けて注意点を挙げてみた。

 

(1)質問の仕方・項目に関する注意

   

 はじめにインタビューの際の質問項目や仕方についての注意点を挙げる。

  一つ目は質問の仕方についてである。インタビューの質問では、相手が理解しづらい抽象的な質問は避けるべきである。たとえば、今回のインタヴューの中では次のような場面があった。

   

嶋田:()えっと今別に日本にどうこうっていう、何か日本について思ってるっていうことも、ないですね。<質問@>

Be:えっと、どういうことでしょう。

嶋田:その、この質問の、ブラジルで抱いてたイメージが日本に来て変わったかって質問だったんですけど、関係ないですね(苦笑)…何か日本について知ったことというか、あ、こうだったんだー、っていうのはないですかね。<質問A>

Be……(考え中)

嶋田:あんまりそういうのも考えないですかね(苦笑)

Be……(考え中)……ないですね(苦笑)

嶋田:そうですか。それで、あのブラジルと日本の文化とかの考えの違いとかは感じました?

Be:やっぱり違うですね。

嶋田:違いますか。職場行ったときとか感じますか。

Be:うーん、仕事では。ブラジルでは仕事やってなかったから(苦笑)言えないですけど。

嶋田:…日本人とブラジル人の気質っていうか性格っていうか、あー…えっと…違い っていうのは具体的にどういうのを感じましたか。<質問B>

Be……(考え中)

嶋田:答えにくいですか(苦笑)

Be……(考え中)……どう言えばいいんかな(苦笑)

嶋田:うーーん、…何か違ってて困ったこととか。

Be:最初は仕事でだから…いろいろ分からんことありましたから。仕事については何も分からんかったから。

嶋田:大学行って仕事してなかったですもんね。初めての仕事で。

Be:初めての仕事で、例えば…仕事の内容とか道具の名前とか全然分からなかったですよ。

     

  まず質問@として「えっと今別に日本にどうこうっていう、何か日本について思ってるっていうことも、ないですね。」と言う質問があるが、これは抽象的というより意味不明な質問だと思われる。次に質問Aとして「その、この質問の、ブラジルで抱いてたイメージが日本に来て変わったかって質問だったんですけど、関係ないですね(苦笑)…何か日本について知ったことというか、あ、こうだったんだー、っていうのはないですかね。」という質問がある。この質問は質問@の仕切りなおしであるが、その後の答え方をみると、答えにくい質問だったようだ。これは、「ブラジルで抱いていたイメージが日本に来て変わった」という回答を期待するが、ブラジルにいたときの日本のイメージは忘れてしまっていることが多いから具体的な例が思い浮かびにくかったのではないか、と思われる。また「日本のイメージ」という言い方ではなく、例えば「日本の人々のイメージ」や「日本の街のイメージ」など具体的な例を出せば答やすかったのではないだろうか。次に質問Bとして「日本人とブラジル人の気質っていうか性格っていうか、あー…えっと…違いっていうのは具体的にどういうのを感じましたか。」という質問がある。このあとの答え方を見ていくと、「どう言えばいいんかな」と言う言葉から、これも答え方に困っているようである。「日本人とブラジル人の気質の違いについての具体的な例」と言う表現が、答えにくくさせてしまった。結局は質問Bを言い換えたその後の「何か違ってて困ったこと」というのが一番答えやすかった。これは「困ったこと」というのが実際に自分が身を持って経験したことであり、記憶に残るような思いがあったからではないだろうか。この質問が「何か違ってましたか?」というような表現の仕方だと、質問ABと同じような聞き方であり、答えがとっさに出てきにくい表現だったのではないだろうか。インタビューをする側から見れば、特に難しいことを聞いているわけではないように思えるが、インタビューイーにとっては質問の内容がとらえにくかったり、答え方に戸惑ってしまったりするようだ。質問は簡単でも、自分が聞かれた立場になって一度考えてみることが大事である。

  二つ目は、プライベートにかかわるような質問についてである。実際に質問をしたわけではないが、インタビューシートを作るにあたって、まず各々でインタビューでしたい質問を考え出し合った。その段階において、いくつか相手のプライベートにかかわるような質問の候補が出た。例えば、「今貰っている給料はいくらか?今の給料で満足しているか?」や「子供に現実的にいじめや差別があったらどうするか?」という質問である。インタビューにおいては、時にはプライベートなことや、深いところまで追求しなければならないときもある。しかし最初からそうした相手が答えるのに躊躇するような突っ込んだ質問をするのではなく、それぞれのインタヴューでの状況や雰囲気を考えたうえで、最初は質問内容を選ぶのがよいと思う。

 

(2)インタビュー前の注意

 

  次に、インタビューに行く前の準備においての注意点を挙げる。

   一つ目に、インタビューに行く際に持っていくインタビューシートについてである。インタビューシートは、自分たちがインタビューでする質問内容の確認や、メモをしたりする際に使うものであるが、相手が見たいという場合もあるので、多めに持っていったほうがよい。今回もCさん家族のインタビューに3人で行ったときに、「インタビューシートを見せてください。」と言われた。自分たちの調査グループは、3人分のシートしか用意しておらず、1人がそれを貸すことになり、2人でシートを共有しなければならなかった。

  それでも相手にシートを渡しておくと、インタビュー中、言葉が通じなくても、シートを見て質問が分かる場合もあったので渡しておくと便利だった。

  二つ目に、インタビューイーとの待ち合わせについてである。当たり前のことではあるが、インタビューの待ち合わせの時間には絶対遅れないようにしなければならない。季節によっては、天候などに左右される場合があるので、遠い場所にインタビューに行くときは特に時間に余裕を持っていくようにしなければならない。今回のインタビューでは、Dさん家族との待ち合わせの際、母子連れで顔合わせに来るという情報を紹介者から得ていたが、実際は夫婦で来ていたのでわからず、行き違いになってしまった。初対面時は、できるだけ細かく場所を指定するか、目印を身につけるなどしてこのような行き違いにならないようにしなければいけない。そして、相手が指定した時間にいなくても焦らないで連絡をするようにしよう。そのためにも、あらかじめそのような状態で連絡がつくように、携帯電話等の情報を交換しておくとよいだろう。

 三つ目に、電話連絡についてである。まず電話でインタビューの約束などの連絡をとる際の自分の名乗り方としては、「富山大学の-です」と名乗るのがよいだろう。電話越しの相手にとっては「人文学部の−社会学コースの−」ということはあまり重要ではなく、「富山大学の学生」という自己紹介の方が明確であり、分かりやすいと思われる。電話越しではこのような簡潔な名乗り方を使い、実際にインタビューに行った時には詳しく自己紹介するのがよいだろう。そして、インタビューに行く直前には「今から伺います」という確認の電話をいれたほうがよいだろう。事前に、何時と約束をしてあっても、行く直前にもう一度連絡を入れたほうが相手も準備がしやすいだろう。

 

(3)インタビュー中の注意

 

 次に、インタビューに行った時、またインタビュー中においての注意点を挙げる。   

  一つ目は、挨拶についてである。このような調査実習をする際のインタビューイーとしては、たぶん初対面の人がほとんどだろう。初対面の相手にとってこちらの印象が決まるのは初めて会ったそのときである。だからまず元気に笑顔で挨拶をすることが大事である。相手に好意的にインタビューに応じてもらえるよう、そしてなによりもインタビューに時間を割いてくれた相手に失礼のないように、インタビューが終わった時や、家を出るときにもしっかりとお礼を言うようにしよう。そして、お宅に伺った際に、子供がいたら、子供にも挨拶をするようにしよう。今回のインタビューでは、子供に答えて欲しい質問もあった。Cさん家族の例では小学校3年生の男の子だった。 お宅にお邪魔してすぐに、出迎えてくれたがどこか恥ずかしそうにしていたので、こちらから声をかけた。そしてその時点で「名前は?何年生?」と軽く会話を交わした。子供も恥ずかしそうにしながらも、インタビューをお願いしたときにはちゃんと協力してくれた。子供とのコミュニケーションのとり方もインタビューを進める際には大事である。

二つ目は、インタビュー時の録音についてである。インタビューをする際には、あとで文字起こしや報告書を作成するためにMDレコーダーでの録音が必要である。インタビューを録音するときには、まず相手に録音をしてもいいか確認をとらなければならない。

  Cさん家族のインタビューの時には、録音をしてもいいか尋ねたとき、インタビュイーは、どういう用途で使用するのか?誰に聞かれるのか?などを気にしていた。私たちが自分たちしか聞かないし、文章を起こすことにしか使いませんと話すと、安心し許可してくれた。このように、インタビューでの会話を録音することに抵抗を感じるインタビューイーもいるだろう。自分たちしか聞かないことや他の用途では使わないなど抵抗を感じさせないようにうまく説明し、許可を得るようにしよう。

 三つ目は、インタビューを録音するMDのトラックマークのつけ方についてである。トラックマークは文字越こしを分担する際に必要である。トラックマークをつけるタイミングとしては、インタビュー中に録音しながらつけていく、またはインタビューが終わって文字越こしをする際につけていく方法が考えられる。インタビューの録音時は、1台のMDレコーダーだけでは、万が一ミスがあり録音できていなかったりするといけないのでMDレコーダーを2台用意し、同時に回さなければならない。この際に、トラックマークをつけるときは1人が責任を持って2台とも同時にトラックマークをつけるようにしなければならない。今回の調査では、Cさん家族にインタビューに行った3人グループで、メインインタビューアーではない2人がMDレコーダーをそれぞれもち、各自が適当な長さでトラックマークをつけていた。あとで文章起こしする際に、マークの位置がずれていたりして、改めて付け直さなければならなかった。1人でインタヴューを行う場合など、インタビュー中にトラックマークをつけるのが負担になる場合には、あとで時間を計りながらつけていくこともできるので、無理につける必要はないだろう。

  最後に、インタビュー中のメモについてである。インタビュー中に思い浮かんだ質問は、一言でもいいのでどこかにメモしておくとよい。今回のケースでは、思い浮かんだ時点ですぐに質問できたものもあったが、メモしておくことを忘れて、どんな質問だったかさえ忘れてしまっていたものもあった。後から自分が見て、わかるような簡単な印などでもいいので書いておくと思い出しやすいだろう。

 

 今回は調査実習として初めてのインタビューということもあって、それぞれのグループで違いはあるが反省点がいくつもあった。特に質問の仕方についてはあとから文字起こしなどをみて、自分のした質問の仕方や相手の答え方をみてみると、答えやすい質問と答えにくい質問があったし、聞き方によって大きく相手の答え方がかわるものもあった。相手が理解しやすい表現の仕方は、たぶん自分に聞きなおしてみたときによくわかると思う。少しの表現の工夫で、得られる情報もいろいろと変わってくる。少しでも情報が多く得られるよう、相手が話しやすいように会話をしていくことはとても重要な技術だと思った。ここに書いたような注意点を今後のインタビューでは是非生かしていきたいと思うし、またこれからインタビューに行く人にも少しでも参考にしてもらえたらと思う。