調査の概要

 

伊藤 智樹(社会学コース助教授)

 

 本報告書は、2005年度後期「社会調査法」の成果である。この授業では、富山大学人文学部社会学コースの2・3年生が、前期でレクチャーされた社会調査の基礎を応用する能力を身につけるため、与えられたテーマに沿って実際の社会調査を遂行する。2005年度後期の受講生は2年次のみ9名であった。

 今回のテーマは、外国籍家族にインタヴュー調査を行なうというものである。県内の個人活動家Yさんをゲートキーパーとして、ブラジル人家族2、中国人家族1、ロシア人家族1の計4家族を紹介していただき、2〜3名の受講生グループがそれぞれ1家族を担当する形で調査を行なった。いずれの家族も、第1回目のインタヴューを11月に行なった他、12月以降に追加調査を行なうこともできた。ただし、1家族については、調査協力の意思がもともと強くなかったらしいことが次第に明らかとなり、追加調査を実現することができなかった。

 今回の調査では、学生が何度も足を運びやすいように、学生の居住地に地理的に近い家族を紹介してもらうことを優先し、どこの国籍の家族にするかはこだわらないことにした。結果として、学生たちは追加調査にさほどの抵抗なく入っていったし、何度か顔をあわせるうちに(ご馳走にあずかるなど)それなりに相手と親しくなっていった学生たちもいることを考えると、そのねらいは当たったということはできる。

しかし、その反面、例えばブラジル人家族のみに絞る戦略に比べると内容的に散漫になってしまったことは否めない。また、Yさんは学生とのトラブルの危険性にも配慮してくださり、その結果、Yさんが言うところの「親日派」の家族が調査協力者として選ばれた。このことは、教育上の配慮としては正しかったと思うが、同時に、ある意味では調査の限界にも関わっている(第3章を参照)。

 それでも、この調査実習報告は、われわれにとって、多くの日本人に馴染みのうすい外国籍の人々の経験を見せてくれるばかりでなく、共生というテーマをどう考えていけばよいのかについて、ささやかな提案も含むものに仕上がった。このような成果を得られたのは、ひとえにYさんのおかげだと言ってよいだろう。彼女は、第1回目の調査を終えた頃(12月2日)に、この授業にゲストとして参加してくれたが、報告書を作る段階になって、そこでの話が重要なヒントを含んでいることに私たちは気がついた。振り返ってみれば、その授業企画それ自体が(意図せざる)インタヴューだったといえる。Yさんには、この場を借りて厚く御礼申し上げたい。