第2節 外国籍家族と社会保険

 

堀田 潤

 

 日本で就労している外国人の中には、従来、社会保険も国民健康保険も入っていない派遣会社の労働者が多かった。それは、派遣元の業務請負業者側が、保険料の原則半額負担を回避する目的で社会保険に加入しない場合があるためである。
 一方、外国人労働者自身にも社会保険への加入を渋る理由がある。企業を通して社会保険に加入すると、年金についてもセットになるため、外国人労働者には保険料が高いと嫌がる人も少なくない。また、年金については、日本で年金を収めても、母国に帰れば、申請などの面倒な手続きを経た上で、小額(3年分)しか受け取ることができない。よって、払い損な感覚が生じてしまう。(ただし、日本で25年以上保険料を払えば、帰国しても日本で払った分相応の年金を受け取ることができる)。
 在日外国籍家族の抱える悩みに応じる活動をしているYさんは、次のようなケースを体験したという。ある外国籍女性のケースだが、彼女は社会保険に加入しておらず、国民健康保険にも、彼女が居住する自治体では加入できなかった。保険料が高いと嫌がる彼女をYさんが説得し、旅行者用の保険に辛うじて入ることになった。その後で、彼女は盲腸になったが、その旅行者用の保険がなければ、80万円を超える金額を払わなければならなかった。
 今回の調査協力者の場合はどうだったか。
 Aさん家族の場合、Agさんは社会保険、Asさんは国民健康保険に入っている。国民健康保険については、「風邪などで何度も使っていて入っていてよかったと思う。大切だと思うし、もったいないと思ったことはない」と話してくれた。
 Bさん家族の場合、子供が病気にかかったら大変だからと夫婦ともに社会保険に加入している。Buさんは来日して「すぐ」国民保険に入った。一時帰国した時に社会保険を解消し、上市に来てからは1年ほど加入していなかった。Beさんは98年以前にすでに社会保険に入っており、Buさんが妊娠したときはBeさんの保険で診察料を支払った。国民健康保険に入る際は、国民健康センター、市役所で手続きをした。Buさんは平成13年に、上市の会社で働いていた際、会社側から「社会保険に入らないなら、ここでは働けません。社員はみんな保険料を払います。派遣会社からここに働きに来ている人は別ですけど(派遣会社で社会保険に加入する)。社員に事故があったら、会社も困りますから。」と言われ、社会保険に加入した。
 Cさん家族の場合、医療保険については、家族全員加入している。
 Dさん家族の場合、Dnさん(日本滞在4ヶ月)とDe君(滞在2ヵ月半)は保険証を持っているという。Dmさんは在留資格証明書をもらって違うビザで来れば作れるそうだが、現在(滞在2ヶ月半)は持っていない。
 このように、我々が調査した4家族のケースでは、いずれも社会保険もしくは国民健康保険に加入している。「(1997年現在)ブラジル国籍者のうち、日本の公的医療保険制度にカバーされているのは多く見積もっても3割に達することはない」(池上 2001;) という研究もあるが、今は外国人労働者受け入れ事情が改善されつつあるのかもしれない。
 しかし、この研究の調査に協力してくれたのは、いずれもYさんに紹介していただいた「親日派」の方々であるから、彼らがそろって保険に加入している家族だったという事実を過大評価してはならない。つまり、必ずしもこの4家族の保険加入状況が、現在の外国人労働者の保険環境改善を象徴しているとは言い切れない。