第3章 外国籍家族が直面する問題を垣間見る

 

第1節 日本でのキャリアと住居

 

西野 あかね

 

 第1章第2節でレヴューした通り、ブラジル人の居住体系は、会社が直接関与する居住形態が8割方を占めている。このことから、会社がブラジル人の生活全般の面倒を見る形態、いわゆる「囲い込み」が定着していることがうかがえる。しかし、最近ではプライベート面まで業務請負業者に管理されることを嫌い、高くても自分で借家を探すブラジル人が増えている。また、外国人が入居を決める条件は、家族構成員の通勤の便、所属する業務請負業者の送迎態勢、団地の間取りや家賃、同じ団地あるいは近隣に住む家族や友人・知人の有無で決めているようである。これらのことについて、私たちが今回インタビューしたブラジル人以外の家族も含めて考察していきたいと思う。
 まず、Aファミリーの場合。最初、AgさんとAsさんが車の部品を作る工場に3年半勤めていた時、二人は小矢部にある派遣会社の寮に住んでいた。その後一旦ブラジルへ帰り、再び派遣会社の紹介でアルミの塗装をする仕事に就いた時も、高岡にある派遣会社の用意した寮に住んでいた。今の住居は四つ目。一つ目、二つ目の住居は先述したとおり派遣会社の寮で、どちらも仕事を辞めて帰国する際に出ている。今の家に住み始めたのは5,6年前で、二度目の帰国から戻ってきてからは一軒家を借りて住んでいた。しかし、当時Agさんの仕事が少なく、給料が少なくなってしまったこと、Asさんが育児のために働けなかったことがあり、1年で一軒家を離れ、Asさんの弟さんが住んでいた現在の市営住宅に移ってきた。
 次に、Bファミリーの場合。Beさんが初めて来日した時には、すでに日本で働いていた父と同じ派遣会社に入っているが、この時はその派遣会社が用意した貸家で、父やその他ブラジル人労働者たちと共同生活をしていた。Buさんは、日本に来て約4年で家族に会いたくなりブラジルに帰り、再来日した時は砺波の会社が用意してくれたアパートに住んでいた。そして二人は結婚し、市営住宅に入る権利を得た。そして現在、二人はBeさんの仕事場からほど近いところに購入したマイホームに住んでいる。
 そして、Cファミリーの場合。今住んでいる県営住宅は誰かの紹介などではなく、自分たちで見つけたそうだ。家族がみんなそろってから今のこの家に住み始めた。
 最後に、Dファミリーの場合。今住んでいるアパートは県が用意したものである。二つ候補があったが、息子De君の学校はZ小学校がいいと県庁からの勧めがあったため、家族と相談してその近くのアパートを選んだのだという。アパートについては、間取り、住所、交通機関、小学校との距離と情報を教えられていた。
 先行研究によれば、外国人が入居を決める条件に家族の通勤の便というものがあったが、Dファミリーが今のアパートに決めた理由は子供の小学校が近かったからである。Bファミリーも今のマイホームはBeさんの仕事場に近いところである。また、条件には同じ団地あるいは近隣に住む家族や友人・知人の有無というものもあったが、これについてはAファミリーが今の市営住宅に移り住んだ理由に弟の存在を挙げている。同じようにBファミリーも、Beさんがはじめ住んでいた寮は父親と一緒のものだった。このように、先行研究で指摘されていた入居条件のうち、近隣に住む家族や友人・知人の有無と家族の通勤の便とが今回のインタヴューでは目立っていたと言える。
 その他に、先行研究では最近ではプライベートまで管理されたくないという理由から自分でアパートを探す人もいると言われていたが、今回の調査ではそこまでの意識は語られなかった。一方、ブラジル人は会社に住居を紹介してもらうことが多いということについてだが、これはブラジル人家族であるAファミリーにもBファミリーにも当てはまっている。両家族とも、はじめは会社に紹介してもらった寮や貸家に住んでいたので、こちらも先行研究の知見に合致する例だと言える。
 今回の調査に協力していただいた家族に関しては、入居に際して差別を受けたりしたことはないようだ。もともと、公社住宅および公営住宅の事業主体では外国人への対応が様々だった。そこで建設省住宅総務課は、1992年に各都道府県あてに通達を出し、公営住宅の入居資格について、永住者および外国人登録をおこなっている者を原則として日本人に準じて取り扱うよう徹底した。これにより、外国人登録をしている外国人が公的賃貸住宅の入居申し込みをする際、国籍に関する制限により排除されることはなくなった。よって、外国人にとって公営住宅が1つの選択肢として選びやすくなっているということがうかがえる。今回のインタヴュイーたちも、すべて公営住宅に入居しているか、過去に入居した経験を持っている。