4−5 マンガと活字メディアとの比較


マンガと活字メディアを比較する意義

 ここで扱うデータにおいて「活字メディア」の意味するところとは、「価値のある文化として人々に広く認知された媒体の代表」としてのそれである。また「読む」という行為の共通性からみても、マンガと活字メディアを比較することが、人々がマンガをどのように評価しているのかを知るために有効な手段であると考えられる。

使用する設問

 ここで中心として扱う設問は、問17nと問10である。

問17nと問10のクロス集計表とそれから読み取れる傾向

 問17nと問10の小問それぞれのクロス集計を行った結果、有効なものを以下にあげる。

表4-5-1(問10-5) マンガと活字メディアはどちらが読みごたえがあるか
度数
(%)
読み応えがあるのは…
活字メディアどちらかといえば
活字メディア
どちらとも同じ程度どちらかといえば
マンガ
マンガ
マンガに
接している
度合い
買って読む
(11.6)
15
(34.9)
16
(37.2)
(9.3)
(7.0)
立ち読み程度27
(28.7)
37
(39.4)
20
(21.3)

(9.6)

(1.1)
読まない25
(36.8)
26
(38.2)
12
(17.6)

(4.4)

(2.9)
合計57
(27.8)
78
(38.2)
48
(23.4)
16
(7.8)

(2.9)
P<0.05  Cramer's V=0.19

図4-5-1(問10-5)

表4-5-2(問10-13) マンガと活字メディアはどちらが繰り返し楽しめるか
度数
(%)
繰り返し楽しめるのは…
活字メディアどちらかといえば
活字メディア
どちらとも
同じ程度
どちらかといえば
マンガ
マンガ
マンガに
接している
度合い
買って読む
(4.7)

(16.3)
17
(39.5)
12
(27.9)

(11.6)
立ち読み程度15
(16.0)
21
(22.3)
32
(34.0)
23
(24.5)

(3.2)
読まない
(8.7)
17
(24.6)
26
(37.7)

(13.0)
11
(15.9)
合計23
(11.2)
45
(21.8)
75
(36.4)
44
(21.4)
19
(9.2)
P<0.05  Cramer's V=0.19
図4-5-2(問10-13)
 これらのクロス集計表から読み取れることを以下に述べる。
 まず全体の傾向として、これらの設問に対してマンガ寄りに回答する人は極めて少ないということを前提として念頭においておかなければならない。このことは集計結果を待つまでもなく常識的に予想できることである。だから、この結果をみる際には、「どちらも同じ程度」という回答を重要視しなければならない。活字メディアが価値あるものとして一般に認識されていることは、この際自明のことである。その活字メディアとマンガが同等に近く評価されていれば、それは高い評価であると見てもいいだろう。
 「読まない」グループの方がより活字メディア側に偏っているのに対し、積極的にマンガに接しているグループは偏りが少なく中間的な回答が多くなっている。
 「読み応えがある」「繰り返し楽しめる」といういうことは、 

過去のマンガ経験とマンガ以外の本の読書量との関係

 次に、過去のマンガ経験とマンガ以外の本の読書量との関係をみる。
 ここで使用した設問は問15nと問21である。問21ではそれぞれの選択肢を冊数(量的変数)として置き換えた。
 このような加工をおこなった上で、問15nの各グループごとに、同時期に読んでいたマンガ以外の本の冊数の平均値を割り出した。その結果が以下の表である。
表 4-5-3 12〜3才頃のマンガ経験とマンガ以外の本の読書量との関係
マンガ経験マンガ以外の読書量
(月平均冊数)
買って読んでいた3.46
立ち読み程度だった2.96
読まなかった1.85
 この表から読み取れることは、「マンガとマンガ以外の本の読書量は比例する」、ということである。マンガに積極的に接している人はそうでない人に比べてマンガ以外の本をも多く読んでいるということが言える。

考察

 つまり、「読書」という行為に親しみを持つ人は、マンガであれ活字の本であれ、同じようにそれを読むことを好み、楽しんでいることが推察されるのである。
 「マンガは子どもの活字離れを加速させる」として非難されることがある。ここで「活字」といった場合、それは文学作品等(=「高尚」で「教養」あるもの)を意味しているのであろう。一方でそれに反論するかたちとして「マンガも『活字』である」という主張もある。この調査結果は前者の主張に必ずしもそうではないのではないかという疑問を投げかけ、後者の主張をある側面から支えるものだろう。
 今回の調査結果で多くの人々がマンガを「理解しやすい」「親しみやすい」ものであると考えていることがわかった。マンガのその親和力は、子どもたちを読書という行為に近づけるために非常に有効に働くであろうことが推察される。

おわりに

 マンガ経験とマンガに対するイメージの関係を様々な側面から考察してきたが、どのような分析をしても同じような結果が出てきた。それは、マンガ経験の量とマンガへの評価は強い関連があるということ、すなわち「マンガ経験が豊富な人はマンガを高く評価し、マンガ経験があまりない人は低い評価をする」ということであった。また、マンガ経験はおおむね若年層になるに従って増え、それにともなってマンガをそれなりに評価することが時代的な傾向になってきていることがわかった。
 マンガは今、「MANGA」として世界各国に輸出され、日本を代表する「文化」のひとつとして認識されりつつある。作品のクオリティも全体的に上昇してきている一方、で大量の出版物が氾濫する中で粗悪な作品が濫造されてもおり、玉石混交の状態ではある。マンガが単なる子どもの玩具的なもの、低俗でいかがわしいものであるというイメージから脱却し、豊かに情報を伝えるメディアとして、良質なエンターテイメントとして、人々が積極的に評価していくようになれば、おのずとその質も向上し、名実共に世界に誇りうる「文化」として成長していくことも可能であろう。

担当:川村 幸代

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