海外四経


 海外四経は中国の周縁に位置する海外諸国の様子を描いたもので、異形の民の住む国々や、太陽を追って死んだ夸父、帝に首をはねられてなお盾と鉞を持って踊り続ける形天などの奇怪な記事に目を奪われる。

 讙頭国在其南、其為人人面有翼、鳥喙、方捕魚。一曰在畢方東。或曰讙朱国。
 厭火国在其国南、獣身黒色、生火出其口中。一曰在讙朱東。
 三株樹在厭火北、生赤水上、其為樹如柏、葉皆為珠。一曰其為樹若彗。
 三苗国在赤水東、其為人相随。一曰三毛国。
 臷国在其東、其為人黄、能操弓射蛇。一曰臷国在三毛東。
 貫匈国在其東、其為人匈有竅。一曰在臷国東。
 交脛国在其東、其為人交脛。一曰在穿匈東。(海外南経)

 讙頭国は其の南に在り、其の人為たるや人面にして翼有り、鳥の喙、方に魚を捕う。一に曰く畢方の東に在りと。或いは曰く讙朱国と。
 厭火国は其の国の南に在り、獣身にして黒色、火を生みて其の口中より出す。一に曰く讙朱の東に在りと。
 三株樹は厭火の北に在り、赤水の上に生じ、其の樹為るや柏の如く、葉は皆珠を為す。一に曰く其の樹為るや彗(ほうき)の若しと。
 三苗国は赤水の東に在り、其の人為るや相随う。一に曰く三毛国と。
 臷国は其の東に在り、其の人為るや黄、能く弓を操りて蛇を射る。一に曰く臷国は三毛の東に在りと。
 貫匈国は其の東に在り、其の人為るや匈(むね)に竅(あな)有り。一に曰く臷国の東に在りと。
 交脛国は其の東に在り、其の人為るや脛を交わらしむ。一に曰く穿匈の東に在りと。(海外南経)

これらを見ると、国の記事の第一の関心はそこに住む人の異様な姿にあり、次いでその行動、そこに産する異物に関心が集まっていることが知れる。そしてその描き方はしばしば絵解きの様相を帯びる。最初の讙頭国の記述は「方捕魚」(ちょうど魚を捕えているところである)という、まさに進行中の動作であり、魚を捕えているところを描いた絵を文章にしたのでなければ、このような記述は不自然である。松田稔氏も『山海経』の絵画性に注目し、海経の絵画的描写は専ら異形の姿を描くだけで、呪術や祭祀に関する記述が少なく、しかも山経で描かれる動植物の形や性質のような日常的知識も見られないことから、巫祝が王侯の諮問に答えるための知識として伝えられた絵画を文書化したものではないかと見る(松田稔『「山海経」の基礎的研究』、笠間書院、1995)。海外四経においては、非日常的な知識の所有者たる巫祝の作である可能性は十分考えられるといえよう。


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